もし、江國香織がカップ焼きそばの作り方を書いたら

青砥白

もし、江國香織がカップ焼きそばの作り方を書いたら

「腹が減った」

 早く起きてしまった日曜日の午前中、他にする事もなくセックスをしてしまったような時には、彼は必ずカップ焼きそばが食べたいと言う。

「いつ起きてるくるの?」

「もう少し」

 瞼を開けもせず、こちらを見る事もなく、うっすらとした声だけで答える。

 その様子に先ほどの情熱は微塵も感じられない。

 どうして私はいつもこの人に抱かれてしまうのだろうと不思議に思いながら、床に落ちた下着を拾い身につけた。

 日の当たらないキッチンは下着姿では肌寒く、リビングのロッキンチェアーに掛けてあったガウンを羽織り、ドイツ製の電子ケトルに必要な水の量を入れてスイッチを下げる。

 電子ケトルの注ぎ口はコーヒーをドリップするために細口のステンレスになっている。ボディは白色プラスチックの細身なデザインで気に入っているのだが、いつになってもプラスチックの匂いが取れない。そのせいで、紅茶を淹れるときだけは、わざわざホーローのヤカンを出さなければいけない。すべてステンレス製のものに買い換えようかと思って探してはいるものの、半年以上良いものが見つかっていない。

 いつでもカップ焼きそばが食べたいと言われても良いように、いくつかストックはしておくのだけれど、彼が泊まりに来るのも気が向いた時だけで、インスタント食品は好きではない私はキッチンの戸棚の一番奥にしまっている。

 お歳暮にいただいた賞味期限間近のそばや、フィリピン産のドライマンゴー、ミックスナッツやいつ開けたわからない海苔の袋を掻き分けるとカップ焼きそばにたどり着いた。

 やっとの事でカップ焼きそばを取り出した時、カタンと音を立てて電子ケトルのスイッチレバーが上がった。お湯が沸いた。

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もし、江國香織がカップ焼きそばの作り方を書いたら 青砥白 @chococyu

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