第24話 邂逅
——光輪。
琥珀も珂雪も、その光に
それは焔をすべて包み込むと、そのまま収束し、やがて形を変えた。
光に目がくらんで何も見えない。
琥珀はいつのまにか、森の火の勢いが弱まっていることに気づいた。
——葵の宮さま。
二度目の声。
葵の宮は、消えない光の手綱を握ったまま、不思議とまだ虚空のなかにいた。
葵の宮がそのまま見つめていると——その真新しい光のなかに、人型をとった四獣が現れた。
すでに凪だった頃の見た目ではなくなっている。
茶色がかった髪は、今は鮮烈な赤。
目が醒めるような黄金色の瞳——
対する葵の宮は、衣の裾や髪の先端は焼け焦げ、頰にも腕にも痛々しい火傷の跡があった。
一部は水ぶくれ、
その四獣は、目の前にいる主を認めると、みるみるうちに、透明な液体を瞳にあふれさせた。
「——申し訳ございません」
「なぜ謝るの」
四獣は主を見上げた。
そして、
耐えきれないように視線を下へそらせた。
「傷つけてしまいました。私が——」
そこでいったん言葉をとぎらせると、四獣は口のなかでつぶやいた。
「私が、四獣だったのですね」
葵の宮は、唇を持ち上げた。
「だから言ったでしょう。郷を出ていくなと」
「——お怪我は」
葵の宮は、その言葉は意に介さず右手をかかげると、再び印を押すように、目の前にいる四獣の額に据えた。
そして、目を閉じてから言い放った。
「汝、夏の郷の四獣にして四神。そなたの名を、新たに焔とす。我に従い、この国の
四獣は
「——すべてはこの国と、自然の定めのままに」
葵の宮はその言葉を聞くと、わずかに微笑んだ。
そして、
今までずっとはりつめていたからだろう、緊張の糸が急に解けたように、その場で崩れ落ちた。
ヒュウマが察して素早く飛んでくる。
焔はヒュウマの背にまたがると、倒れ込んだ葵の宮を、その手で抱きよせた。
夏㚖殿の奇獣舎で別れた時のことが、はるか遠い昔に感じられた。
あの時必死に引きとめようとした葵の宮を思うと、おのれの不忠が
まさに
もう少しで、
自分は《葵の宮》を本当に殺しかねないところだったのだ。
その事実に、彼は戦慄を覚える。
その一方で、
葵の宮がやって来なければ、自分は未だに理を解さない破壊者だっただろう。
それを身を
なんという度胸と勇ましさだろう。
そして、その局面を乗り越えたからこそ、
官吏や
——葵の宮さまは、その真理をよく心得ていた。
だから宮代の進言をはねのけ、保身に走ることを
もし保身に走れば、夏㚖殿の内部は分裂しただろう。
登極が延びれば延びるほど、新しい巫女姫への求心力は弱まり、以後、表向きに登極をすませても、その実情はすべて宮代が握ることになる。
——篠竹の底意は、それにあったのかもしれない。
しかし今となっては、もうどちらでも焔はかまわなかった。
「——やっと終わったな」
いつのまにか、琥珀がいたずらっぽい笑みを隣で浮かべている。
琥珀も、今改めて目にする少年が「たよりない」とは、もう思わなかった。
彼は目覚めたのだ。
——正道に、新しい巫女姫の名のもとで。
「いや、まだこれから始まるんだ。お身体の快復を待って、夏至に
他の郷の四獣が「証人」となるのは、極めてめずらしい。
その言葉に、琥珀ばかりか——後方にいた珂雪もうなずいた。
「あそこでのびているのは、どうしますか」
その言葉は、琥珀がひきとった。
「じきに《桜の宮》が采配を振るだろう。謹慎か、禁錮か。それ相応の沙汰があるはずだ。ほうっておけばいい」
珂雪は、それでは不十分とばかりに下をねめつけていたが、興味をなくしたように目をそらし、代わりに焔に言った。
「よければ私が夏㚖殿までご同行致しましょう。見知った侍女もいる。それに、登極の誉れを前に、禍根を残しておいてはいけないから」
それは、宮代が恐れていた「冬の郷の四獣」のことだった。
事実、珂雪は
焔は
はるか春陽殿から、ヒュウマに乗って飛んでくる影が見える。
事の様子を見に来たのだろう。
焔は、葵の宮を守る決意を新たに、その影と合流すべく、ヒュウマの手綱を再び握りしめた。
《了》
四季の中つ国 星 雪花 @antiarlo
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