第18話 心の内
珂雪が言ったように、
侵入するのはとても簡単だった。
葵の宮は早々に加南を見つけると、自分の正体を明かした。
加南は、見慣れない侍女が葵の宮だと知ると驚愕したが、この巫女姫の特性を昔から知っているため、半分あきれたような様子だった。
「この数日間、あなたさまがいなくなって、ごまかすのがどれほど大変だったか」
そう嘆く加南を、宮は一蹴した。
「話はあと。変わった動きはあった?」
「篠竹さまが要請した、秋の郷の者が今朝来られました」
——秋の郷の者。
葵の宮は、今し方会ったふたりを思いだした。
「出て行ったのではなくて? 今朝ここに来たの?」
「なので、入れ替わりにここに来られたのです」
——秋の郷の四獣は、夏昊殿にいるかもしれません。
珂雪はそう言った。
本当にそうかもしれない。
葵の宮は、加南に向き直り、決然と言った。
「その者たちの世話は私がするわ」
加南は目をむいた。
「せっかくお戻りになられたのに、何をおっしゃいますか。どういう
「私、まだ四獣を見つけていないのよ。またここを出ていかなければいけない。
もうしばらく、私は部屋にこもっていることにして」
加南はうなだれたが、この巫女姫がいったん物を言えば動かないことを、よく知っていた。
今さらどうこう言えることではない。
「登極のために四獣が必要なのは分かりますが……どこにいるのか、宮さまに分かるのですか」
「分からないわ」
そう答えた上で、
葵の宮は、強くきらめく目で加南を見返した。
「だから、探しに行くの。地の果てまで探して見つからなかったら、またその先まで。
篠竹が恐れるものを、私は恐れない。私は、自分の役割を果たすだけ。そのためなら」
——そのためなら、この身が焔に焼かれてもかまわない。
このまま、かごのなかの鳥のように、安穏と登極の日が延びるのを、ただ待っていることはできなかった。
この郷は、貧しい。
四獣がいないからだ。
四獣がいないということは、天宮の加護が得られないことに等しい。
今はよくても、作物が育たなければ、今後は飢える者が出てくるだろう。
一体なんのための巫女姫なのか。
四獣がいれば、間違いなく、結果的に郷は潤うのだ。
そのために自分が犠牲になるのなら、それでもかまわなかった。
葵の宮を前に、加南は声をひそめた。
「篠竹さまは、ただ心配しておられるのです」
心配。
心配して、何が得られるというのか。
この郷の宮代は、何も分かっていない。
幼い頃から、それがいやだった。
「今日来た者に用意した部屋を教えて。いつまで彼らはいるの」
「早ければ明日の朝、帰られるかと」
「では、その時に」
——「氷花」を解いてもらおう。
もし本当に、彼が四獣なら、それができるはずだ。
葵の宮は、
ふいに舌打ちしたくなった。
——そもそも私の言うことを素直に聞いていれば、こんな面倒なことにならずにすんだのよ。
そう思うと、無性に腹が立った。
加南は、まだ「侍女」にしか見えない葵の宮——空恐ろしいことに、顔形まで変わってしまっている——を前にため息をつくと、結局彼らの部屋を教えることになった。
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