第517話 寄合所帯
「ほな、会長さん。親方会議を始めるよって主立った連中をつれてこっち来てや」
燃え盛る町並みを見ている僕にユゴールが声を掛けてきた。
既にアスロやグェンたちは欠けることもなく戻ってきていて、報告も終わっている。
それによれば彼らは市街地に放火する準備をしながら数十名の兵卒を殺害しており、嫌がらせとしての成果は十分というところであった。
「結局、本格的には攻めて来ませんでしたね」
いくつかの木箱が椅子代わりに並べてあり、その一つにユゴールが腕を組んで座っていた。その横にはハメッドが立ち、アスロが近くに座っている。
僕も隅っこの箱に腰を下ろしたのだけど、ユゴールから怪訝な表情を向けられてしまった。
「なにやってんねん、会長さん。親方会議や言うたやろ。親方ちゅうたらアンタもやないかい。もっとこっち来いや」
言われてみればその通りで、僕は居心地悪く彼の正面に座った。
どうもこの、髭面の怪人は上背もないのに威圧感があって苦手である。
グェンとグロリアも僕の近くに座ると、間を置かずにリリーと呼ばれる女性がやってきた。
「親父さん、だいたい準備も終わりました」
「おう、オマエも座れや。それじゃ会長さん、今からの行動やけどとりあえずウチの非戦闘員を逃がすわ」
もともと日没を待って移動を始めるという話だった筈だが、まだ日は中空にあり明るい。
「向こうさんも徹底的に攻めて来る気はまだないみたいやからな。ほんなら逃げるのも今やで。ちょうど火事で近づいて来んし、先にワシがかさばるモン運ぶから預けたい荷物があれば早めに渡してくれよ」
確かにメッシャール兵たちは時々、様子見の様に前進の気配をみせるだけでついに本格的には近づいて来なかった。
別働隊による襲撃も二度あったきりで、どちらも腕利きとはいえ小部隊によるものである。
「そうなると銃での攻撃も効率が悪くなるんじゃないですか?」
僕は素直に疑問を投げかける。
ハメッド率いる銃兵隊は大勢の弾込要員を確保し、撃ち手と分けることで飛躍的に発射間隔を縮めることが出来ていたのだ。
「悪くなるも何も、各人一丁の銃を残して後は持って行くがな。なんせ高級品やからな」
ユゴールは当たり前のような表情でつぶやく。
「でも、それじゃ本格的な攻勢を受けたときにどうしようもないですよね」
「そら、そのとおり」
ユゴールに変わって答えたのはハメッドだった。
「一発、二発と撃ってるうちに殺到されて袋叩きや。が、まあ大丈夫やろ。アイツら国民軍と違うからな」
「なんでか、いけ好かん司令官殿も死なはったしな」
それの何が面白いのか、ハメッドとユゴールは顔を見合わせてガハハと笑う。
解説を求めてアスロを見ると、彼はすぐに察して説明し始める。
「要はメッシャール軍といっても軍閥や貴族の連合体で一枚岩じゃないんだよ。本来は別々の組織が一緒に行動するから指揮官なんかの役割、利益の配分も各氏族で事前に打ち合わせていたんだと思う。だけど原則的に言えば氏族同士できちんと話しを付けない限り、余所の兵力は雑兵でも動かせない。その中で事前に決めた指揮官を失ったものだから次の行動が決まらないんだ。先陣で突撃をして配下が減れば手柄を立てたってその後の発言力が下がれば不利になる」
なるほど。だから敵も我先にはやってこないのだ。
彼らが強攻を仕掛けてくれば僕たちの対処能力は飽和し、結局は押しつぶされただろう。でも、それなりの数も道づれにするのだという決意をジプシーたちの銃声は絶えず伝え続けていた。
「そんなワケでこっちが待ちかまえてりゃ、しばらく時間は稼げるが次の司令官が決まって他の勢力をまとめりゃ、けっきょく嬲り殺しやから、今のうちに逃げる必要がある……が」
ハメッドは渋い表情でメッシャール軍陣地を睨んだ。
「アイツら腐っても騎馬民族やからな。追撃戦はお手の物。しかも、反撃が少ないとみればその後の発言力確保の為に必死で手柄を取りにきおる。ほんま現金な奴らや」
現金さでは商談が決裂しただけで彼らの敵に回ったユゴール一味も負けないとは思うけども、あえて指摘する必要もないだろう。
「つまり、非戦闘員が撤退するのを銃兵で援護するということですね。その後は、私たちが撤退するのを銃兵が援護してくれるのですか?」
グロリアが聞きづらいことを淡々と聞いた。
しかし、ユゴールは鼻で笑う。
「それを決める為の親方会議やんけ」
要は僕たちに虎の子の銃兵隊が撤退する際の尻を守れと言うのだ。
が、まあ構いはしない。
というよりも追いかけられた場合に銃兵隊単独では実のところ十分な攻撃能力がなく、撤退する際にも十分な援護なんて受けられないのだ。
「いいですよ。僕たちで足止めをやります」
それで勢いづいたメッシャール軍に後ろから襲われるくらいなら最初から迎え撃ち、出足を打ち砕いた方が安全だろう。
それに恩も売っておいた方がいい。
彼らがそんなものにどれほどの値を付けるかは大いに疑問だけれども、こちらがどれくらいの請求を求めるかも僕の自由だ。
「なんせ腕自慢ですから。それで、アスロを貸して下さい」
アスロには腕前の他にも軍事的知識がある。
彼を除けては、そもそも僕が何をしていいのかもわかりはしないのだ。
しかし、ユゴールはゆっくりを首を振った。
「だから親方会議やと言ってるやろ。アスロの都合は本人に聞かんかい」
そう言われて僕はようやく理解した。
この場にいる親方とは、僕とユゴールとアスロなのだということを。
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