第328話 乱闘
用心棒たちが近づいてきた。
『流星矢!』
魔力球が分散しながら用心棒たちに降り注ぐ。
しかし、ほとんど効果が見て取れないのは痛覚が表に出ないからか。
傀儡を止めるには一撃が重い方が良さそうだ。
サンサネラが駆け出すと、先頭のザナをかわし二番目の男を突き飛ばす。
突き飛ばされた男の体が邪魔になり後続の足を止めた。
即座に振り回されるザナの手斧を間一髪でよけると、手にした小石をぶつけて距離をとる。
いかにサンサネラが腕利きでも五対一だと分が悪い。しかも、相手もそれなりの腕利きぞろいだ。
それでも、マーロは増援に行く気はないらしく、僕のそばで長剣を構えている。
勝負は僕とムーランダーの生死だけが決めると理解しているのだ。
要するに、前衛が拮抗している間に後衛がどうするかで勝負は決まる。
『雷光矢!』
射程内に立ち入ったムーランダーに向けて放った魔法弾は一直線に飛び、掲げた片腕に吸収された。
いや、相殺された?
見ればムーランダーの手を囲むように空間が湾曲しており、それに反応して消滅したようだ。
ムーランダーの目が赤く明滅する。隻腕の特徴をあげるまでもない。間違いなくイズメだ。
仕組みは不明ながら、僕が見せた魔法に対策を練ってきたのか。
ということはコルネリを使っての攻撃も対策を張られている可能性がある。
踊るように傀儡の間を動き回るサンサネラに時間的猶予は少なそうだ。
思考を回転させ幾つかの案を並べた瞬間、激しく突き飛ばされた。
受け身を取る間もなく地面に突っ伏し、慌てて振り返ると柱が地面に叩きつけられるところだった。
ドン、と鈍い音がして地面が揺れる。
怪物だ。
迷宮で見た巨大なトロールを倍にしたような巨体のムーランダーが片手で金属製の棍棒を握り込んでいた。
幻覚か?
僕が混乱しているのは事実だった。
イズメやマブシと同じ生き物にはとても思えない。
それでも、僕を突き飛ばしたマーロは迷いなく切り込んでいた。
迷宮で遭遇する巨人にはこれよりも大きなものも、奇妙なものもいる。
こういう怪物と向き合うことこそ迷宮冒険者の、それも戦士の本領といえるかもしれない。
マーロの長剣は棍棒を持つ腕をざっくりと切り払い、その勢いで三度の斬撃を浴びせた。
しかし、巨体のムーランダーはその影響を見せず、巨大な棍棒を振り回す。
相当な重さを持つだろう棍棒を枯れ枝のように振り回されると小柄な方は不利である。
ムーランダーの反撃にマーロは退くと、牽制しながら僕の前に立った。
『吼えろ、動く鎧!』
亜空間を開いて呼び出したゼタは、巨大な怪物と向き合うマーロを見て即座に行動を決めたらしい。
指先から小さな炎を無数に放った。
霰の様にばら撒かれた魔法球は超高速で飛翔し、ムーランダーの眼球と傷口に降り注ぐ。
通常、敵の口を狙う秘術は、長毛故に口が見えないので狙いを変えたのだろう。
と、いうよりも女性を巻き込まない為に使う気を、僕にも少し回してくれればいいのに。
ムーランダーの巨体が視界を塞がれ上体を反らす。
マーロはすぐに間を詰め、下腹部に長剣を差し込む。
ゼタは隙間なく火炎球を連打し、全力で援護をしている。普段の様に出現と同時に魔力を使い果たす様な戦い方よりもこちらの方がずっと効率的じゃないか。ゼタが僕の言うことをききはしないのだから無駄な気づきだけど。
巨体のムーランダーについてはゼタとマーロに任せよう。
視線をずらすと向こうではサンサネラが苦戦していた。
既に二人が倒れており、この瞬間も三人目の首を掻ききったが、体中の体毛を血に濡らしている。
イズメの視線は乱闘を無視し、まっすぐ僕に向いていた。
『灼炎!』
真っ赤な魔力球が前衛同士の戦線を越え、イズメに向かう。
イズメが魔法球をかき消そうと片腕を挙げた瞬間、発動。
猛烈な高温がイズメを包む。
ルビーリーはこれで終わった。しかし、爆発がおさまった後にもその場にイズメは立っていた。
彼らの体毛は燃えにくい。その難燃性の長毛には空気が含まれるのだから人間より利きが圧倒的に悪い。
それでも毛が縮れ身につけていたものも燃え落ちている。
殺せる。必ず殺せる。
そうして、死んでしまえば僕の領域だ。
周辺に転がる無数の死体の中で四つに魔力を通す。
命令はイズメを殺せ。
起きあがったムーランダーの死体はぎこちない動きながらも前衛の乱闘を避けイズメに向かっていった。
「貴様、我が同胞まで邪法で嬲るか!」
枯れ葉の様な声でイズメは叫ぶのだけれど、彼らの傀儡戦法と本質的に違いはなかろう。
周囲に目を向ければ、サンサネラは血を流しながらもがいているのだけど、マーロとゼタの二人は巨人を相手に優位な戦闘を繰り広げていた。
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