第257話 秘技 重ね斬り

 話は煮詰まり、僕たちは前進を再開した。

 小雨は思い詰めたような表情を浮かべているものの、遭遇した二匹のトロールとの戦闘には遅滞なく参加した。

 一匹は大降りの山刀を手にした鎧のトロールで、もう一匹は槍を手にして鎖帷子を身にまとっている。

 魔力の内包量が今までのトロールとは格段に違う。


『眠れ!』


 僕の魔法は二匹ともを絡め取り、戦闘不能に落とした。

 瞬時に前衛組は距離を詰めて襲いかかる。

 槍の穂先を避け、ノラが両腕を切り落とすとカルコーマは山刀の方を押し倒して馬乗りになる。

 小雨はカルコーマが抑えたトロールの目に深々と短刀を突き立て、一匹はそのまま絶命した。

 後は両腕を失ったトロール一匹。

 油断したわけではない。

 ノラも、僕だってトドメを刺すべく動いていた。

 しかし、その攻撃が届くよりもトロールが意識を取り戻す方が早かった。


「オオオオオオオオオオオオ……!」


 長く高圧の雄叫びに脳を揺すられ、思考が混ざる。

 数秒の空白の後、意識が戻ってくると近距離で衝撃を受けたノラは両耳から血を流しながら片膝をついていた。

 バンシーのそれとは違う、純粋に大きなだけの声はしかし、トロールの回復時間を稼ぐには十分だった。

 切断された両腕が即座に再生し、トロールは槍を拾う。

 棹での打ち付けを間一髪、刀で防いだノラは大きく跳び退き、感覚が戻っていないのか、無様に転んだ。

 槍の穂先は鋭く動き、慌てて援護に回った小雨たちを牽制して近づけさせない。

 小雨が投石で注意を引いてカルコーマが突っ込もうとしたものの、トロールは素早く飛んで距離を取った。

 

『火炎球!』


 ゼタの魔法がトロールの眼球を焼くが、効果は薄そうだった。

 だけど、ステアがノラへ回復魔法を掛ける時間と、同時に僕が魔法を唱える時間は稼げた。


『動け!』


 死霊術は成功し、カルコーマたちが倒したトロールが起きあがる。

 トロールは相棒の死体に驚き、小雨たちを牽制しつつ叫んだ。

 トロールにも恐怖があり、混乱があるのだろうか。

 何を考える必要もない。

 僕の操るトロールは槍を気にせず距離を詰め、腹を刺されながら獲物を捉えた。

 

「今です!」


 僕の合図に呼応するように、回復したノラは二匹のトロールを纏めて斬り捨てる。

 袈裟懸けに滑り落ちたトロールの上半身を二つともカルコーマが踏み潰して戦闘は終了した。

 

「ちょっと、アレって禁術じゃないの!」


 驚いた顔でゼタが詰め寄ってきた。

 死霊術は禁術である。それを僕が習ったとき、同じ教室に彼女もいたのだから当然だ。


「内緒にしといてね」


 トロールから魔力を抜きながら僕は頷いた。


「黙っているから、私にも使い方を教えなさいよ」


 眉間にシワを寄せたゼタは声を潜めてささやく。

 だけど、死霊術の術理なんて簡単なことじゃない。僕の場合、アンドリューから無理矢理刷り込まれたから感覚的に利用できるのであって、言葉で説明しようとすればどこから話していいのか。


「ダメですよ」


 横から声を掛けてきたのはステアだった。

 複雑そうな表情を浮かべて僕たちを見ている。


「なに、あなたには関係ないでしょう」


 ゼタは冷たく言うとステアを睨みつけた。

 

「私はね、死にたくないから使える技術を覚えようとしているの。それとも、あんたたちの教えでは生きるための努力も否定されるの?」


「いえ、そうではありません。ただ、いかなる理由であろうと禁止された技術を用いるのは、自分を攻撃する口実を振りまくようなものだと言っているのです。その場しのぎで生き延びても、結局それを理由に処罰されてしまうのであれば本末転倒ではないですか」


 ステアの憂いを帯びた目は何を想起しているのか。

 だけどゼタは納得がいっていない様子で食ってかかる。


「後でどうとか、考えられるのは余裕がある証拠なの。私はいつも、その瞬間を必死で生きてきたわ。やれることを全部やって、しのぎ続けるしかないじゃないの。それが気にくわなくて、アンタやそこの暗殺者が殺しに来るんなら、それもしのいでみせるわよ」


 怒鳴られて、ステアは俯いた。

 どうもよくない。彼女がステアや小雨に敵意を持っている。それは仕方がないのだけど、仲間割れが始まるのは避けなければいけない。


「ちょっと待ってよゼタ。とにかく禁術をすぐに教えるとかは無理だから、その辺は帰ってから話そう」


 一体何をやっているのだろう。

 話したかったステアには時間を割けず、ほんの少し話せればそれでよかったはずのゼタとは会う約束をしている。

 

「そもそも、君はなんで僕を避けていたのさ」


 ワデットの編み紐を見つけたあと、僕は彼女に報告してから現物をワデットの実家に送るつもりだったのだ。

 それが、ゼタに会いだせず延び延びになっていた。

 

「アンタが嫌いだからに決まっているじゃない」


 当たり前のように言うのだけど、それはもうわかっていた。

 

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