第177話 厄介者達

「おい、小僧。メチャクチャ捜しちゃったぞ、この野郎!」


 『荒野の家教会』までもう少しというところで僕たちに後ろから声が掛けられた。

 振り向くと、三人の男達がこちらへ向かってくる。

 先頭を切って歩いてくる胡散臭い男前は何事か喚いているが見た事はない。対してその横にいる大柄なゴロツキはどこかで見覚えがある。

 そんな事はどうでもいい。

 僕の視線は最後尾をタラタラと歩いてくるローブの男に吸い寄せられていた。

 キュードファミリーの用心棒であるチューリップの魔法使いだった。

 危険人物の登場に一瞬で汗が噴き出る。口ぶりからすればこの男達は僕を目掛けて出張ってきている。

 迷ったままが一番マズい。

 僕はすぐに覚悟を決め、息を吸い込んだ。

 

「やあ、どうも。お久しぶりです」


 出来るだけ朗らかに、親しみを込めた口調でチューリップの魔法使いに声を掛けた。


「やあ」


 魔法使いも穏やかな声で返す。

 この男は話しが通じない危険人物だが、会話は可能である。

 果たして、僕の目論見通りに前を歩く二人の勢いは鈍り、険しい表情のまま僕と魔法使いの顔を見比べた。

 彼らは因縁の一つでも述べて僕に暴行を加えたかったのだろうけど、そんなものに付き合ってやるものか。

 

「今日はどうしたんですか?」


 震えそうになるのをこらえて笑顔で聞いた。

 

「うん、この二人が君を捜してぶちのめしたいって言うものだからね。僕はそんなに興味もないんだけど、契約金とは別に金もくれるらしいから付き合ってるんだよ」


 物騒な内容を優しそうな口調のまま、魔法使いは言う。

 僕の脳が必死に逃げ道を捜すのだけど、この男からは逃げられそうにない。

 この男は都市の内部でも高度な攻撃魔法を躊躇なく使うだろう。

 そうなると僕たちはあっという間に消し炭にされて終わりである。

 僕はブラント隊の二人に向かい、友達でも紹介するようにあくまで穏やかな口調を保ちつつ、話しかけた。


「この人達はキュードファミリーの人達なんだけど、僕に用があるらしいからちょっと行ってくるね。君たちは先に目的地に行って待っていてよ」


 僕が切羽詰まった様子になると途端に修羅場が始まってしまう。

 二人は戸惑い、互いに目を合わせている。

 僕は胸のコルネリを掴むと、マーロに無理矢理握らせた。

 

「明日の朝になっても僕が戻らなければ餌をあげておいて。どこかに飛んでいくのなら逃がしちゃってもいいからさ」


 コルネリが僕の方に戻ろうとするのだけど、マーロがしっかり掴んで離さない。

 

「さ、もう行きな」


 僕は優しく彼らの背を押して歩き出させる。

 三人で死ぬ必要はないし、彼らを巻き込んで都市で人殺しをさせたくもなかった。それに逃げるにしてもこの二人はいない方が自由もきく。

 二人は僕の意を汲んでくれたようでソロソロと歩き出した。


「あれ、逃がしちゃっていいの?」


 魔法使いが二人を指して聞いた。

 まだ面喰っているゴロツキは躊躇いから、怒りの表情に戻り、僕の差し出した手を見て再び困惑の表情を浮かべる。


「用があるのは僕なんでしょう。ならあの二人はいいじゃないですか。もし彼らに手を出せば僕があなた達を焼き殺します」


 できるなら都市で人を殺したくない。そう思いつつ、ちっぽけなこだわりなど仲間を守る事には替えられない。

 僕は一転して出来るだけ凄みながらも彼らがビーゴたちを素直に解放してくれるのを祈った。


「僕は死なないけどね」


 魔法使いは楽しそうに言う。

 ハッタリではない。

 彼が体内に秘める魔力は僕の最大の一撃でも削りきれず、逆に僕の体力は彼の弱い魔法でさえ簡単に底をつく。僕と彼にはそれほどに差があるのだ。

 

「ほら、やりなよ。お互いに殺しあえばすっきりするさ。ここからならあの二人だってまだ射程内だ」


 魔法使いの口元は美しく歪んでいた。

 大柄な男が慌ててそれを止める。


「待ってくださいよ先生、俺たちが死んだら金も払えないよ」


「ううむ、君たちを生かして金を貰うか、君たちを殺してすっきりするかは実はどっちでもいいんだけどな……」


 そのつぶやきにゴロツキは二人ともギョッとした表情を浮かべた。

 こいつらはこの魔法使いに何を期待しているのか。

 贔屓目に見ても狂人ではないか。

 というか、僕の目の前で小男を焼き殺したがあれだってキュードファミリーの構成員だったはずだ。


「あ」


 僕は思わず声を出してしまった。

 突然のことにチンピラたちも魔法使いも僕の顔を覗き込んだ。

 大柄な男は小男と一緒にお屋敷に訪ねてきたゴロツキだとようやく思い出すことができた。

 ということはもう一人がマルカとかいう顔を腫らしていた男なのだろう。そういえば背格好が同じである。

 それはそれとして、都合がいいことに各人の意識が都合よくこちらを向いてくれたので、両手をパチンと叩いてから再び穏やかな表情を浮かべる。


「ほら、僕に用なんでしょう。どこへでもお供しますから早く行きましょうよ」


 魔法使いは興が殺がれたようでつまらなそうな表情で矛を収め、マルカは動揺しながらも当初の目的を思い出したらしく、深呼吸を一つしてから僕を殴りつけた。



 僕は朝日を受けながらマルカの後をついて歩く。

 後ろには大柄な男が付き添い僕の裾を握っている。

 僕だって腐っても冒険者なのだから、都市のゴロツキ二人くらいどうにか出来るとは思うものの、少し距離をあけて件の魔法使いがついてくるので、いかんともしがたい。

 彼は僕が逃げれば三人とも吹き飛ばすと予告しているので二人のゴロツキも目が血走り、表情に余裕がない。

 僕たちは花街の手前、倉庫が立ち並ぶ通りに入り込み細い路地をグルグルと歩いたあと小さな建物に入った。

 造花の倉庫らしく、出来上がった製品や材料がそこらじゅうに置いてある。

 その奥には狭い檻が設置されており、彼らは僕の両手両足を鎖で縛ると、そこに放り込んだ。

 マルカは魔法使いに金貨の入っているらしい皮袋を渡し、平身低頭頼み込んで倉庫から出て行って貰うと、咳払いを一つし、今度こそ落ち着いて僕への因縁を話し始めた。

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