憧憬

幽玄たる光の蓮にのまれて

めくるめく青の虚構に飲まれていった君


いったい私達はなにを目指していたのだろう?

青の虚構はどこまでいっても景色は変わらなかったし

時折吹く風はいつも無風だった

空は悲しみの色を称えていて

光は全て紛い物だった


造られた

化石のように世界は廻る

人工的脈動を打つ夜の陰湿さの方が

随分と暖かいものだよ


君はいい

君はもう枷から逃れたのだから

僕は未だに地表から抜けだせられないのだよ

壁は高いし

夢が儚いのは僕がまだ人だからだろう

いっそのこと

人をやめてしまおうか

あらゆる物を見捨てて

あらゆる罪をほっといて


そちらへ行ってしまおうか


どうせこの入れ物は遅かれ早かれ彼に返すものだし

なんの感慨もない


むしろ彼の電気信号になることも悪くはなかろう

なんの役にも立たないのなら

それで終わる方がよほどマシではないかね?



まあ怒るだろうな



君は



──とっととてめえの世界にかえりやがれ!!──


と、罵倒しながら、友情の意を示すのだろう。

あの人と同じように




僕はねぇ?


だからねぇ


人はそこまで鈍感ではないと思うのだよ




ほら、また遠くで鳴り響いている

幾つかの銃声

乾いて固い砂地に

砂煙にくるまれて倒れる人

砂を掴む



広がるなにか



聴こえてるはずなんだよ

見えているはずなんだよ


フィルターがかかっているのだろうね

君もまたフィルターを外そうと頑張っていたね

あのフィルターが外れない限り、人は人間になり得ないから


それでもね

彼らはそれでも人間になったつもりでいるんだよ

化石のような世界では

それが人間なんだよ


フィルターごしの向こうで放たれた弾丸がね

頬を掠めていくことを知らずにね

人間として

人間だと思ってね


生きてるんだよ。


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青の虚構 ねことバス @nekoneko10

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