青の虚構

ねことバス

【 ─      ─ 】

行く道ふさぐ想い 正体を探るに 病に衰えた体は

(雲はまったくの広がりを魅せて陽を隠している)


まだ重く

(風流れ、雲流れ)


軽さを求めれば 病はもっと重くなる

(狭間から覗く水色も重みをましていく)


苦しみからの解放 を 求めて行く道

(雲はやがて雨散霧消、一面に拡がった)


を 断ち塞ぐ

(青、青、青、)









【 ─ 青の虚構 ─ 】









彼は若者だったのだろうか。

今は老衰して骨と皮になってしまい、煎餅布団の上に即身仏のように鎮座している。





縁側から覗く景色は春の陽気に彩られ、穏やかな清々しさとシュンレツたる鬱蒼しさが共存し、若草は地面に沸き立つ叢雲の如し、それから続く群れた菜の花は風に揺れ、春の光を乱反射している。



昔から自由という誘惑に弱い者だったが、それが今や君の最後の願いなのだろう。

衰弱した肉体とは裏腹に、眼光は益々鋭さを増している。

いったい君になにがあったのか?

なにが君をそこまで追い詰めたのか?


・・・いや、


それは聞くだけ野暮というものだろう。


強固な意思を持つ者は、その意思故に自滅する。

しかし君はまだ死んでいないし、細くなった眼窩から放たれる眼光はまだ諦めてさえもいない。


友よ。


さぁ、立ち上がろう。

青の虚構へと立ち向かおう。



もう、

声も聞こえないのか。

口を細めて、何を言うというのだ。

ヒューヒューと風の音しかならないではないか!


友よ!


体も石のように硬くして白い綿毛のカビも生えて・・・


いや、これはほんとうにカビなのだろうか?


この顔はどこかで見たことがある。

腫れぼったい瞼と細い眼窩。

尖った唇に白い綿毛。


友よ。


君はついぞや鳥にでもなったか?




おどろおどろしい空気がとぐろを巻いている。

不安や焦燥に彩られた禍々しい空気が。


しかしそれとは無関係に空は明るく、風は吹く。


ふいに



鳥の囀ずり



鎮座していたはずの骸が立ち上がった。



青の虚構に吸い込まれた友よ


君は確かに翼を得た


そして君は両手を失った


君が残した筆を僕がもらってもいいのだろうか?



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