一日目?

遠く地元を離れ、彼は一人決意新たにこの地に辿り着いた。以前から希望していた大学には受からず、ランクを二つ下げて、地元から少し離れたど田舎の大学に進学した。だからと言って、これまでしてきたことが無駄になるわけではないので別に気にしてはいないのだが、どうしても志望校に悠々と合格していった友人たちを見ると、少し劣等感を覚えてしまう。

「なーに、暗い顔してんだよ」

引っ越しの準備も大体終わり、いよいよ入学だという矢先、幼馴染のヒロが俺のアパートを訪ねてきた。彼は友人の中でも仲がいい方で、俺の中では親友だと言ってもいいぐらいだが、彼には自分がどう見えているのか当たり前だがさっぱり分からない。ヒロは昔から成績が学年トップであり、運動神経抜群、好青年といった感じで異性からはモテモテという、いわゆるリア充爆発なやつなのだ。しかし、どこか憎めない性格なので、俺も結構仲良くやっている。

「いや…、別に。なんでもないよ」

俺はこないだ片付けそびれた段ボールのかたまりを、ビニールテープでまとめながら、素っ気なく答えた。人によっては感じ悪いやつと思う人もいる態度で接するが、これがいつもの俺であり、ただ単に淡白なだけなのだ。怒ってもいないし、悪気があってやっているわけでもない。ヒロもそれを知っているから、冗談交じりに笑いながら言葉を返す。これがいつものやり取り。なんともない日常。平凡な日常。



大学は入学当初こそ期待に満ちて、さあやるぞという気迫に満ちていたのだが、次第に気持ちも冷め、決まり切ったルーティーンにマンネリ化してくるものだ。人生の中で、ぷー太郎な生活を謳歌できる場所。学生という身分で学問に励み、ある程度その身分で甘んじていられる場所。外国の大学ではそうもいかないが、三流大学の俺にはその程度のことだった。少しのやる気と数多くの仮面。それがあれば乗り切ることができたのだ。

そうやって、無駄とは言えないが、なんとも無駄な生活を過ごして二年が経とうとしていた。俺は二十歳になり、さあいっぱしの大人に仲間入りだあと感慨深げにジョッキ生をあおるのであった。


どれくらい寝ただろうか。気づけばカーテンを開けたまま、寝落ちしてたようだ。いつものことだが、シャツ一枚とこの格好では風邪引いても仕方ないよなあと思いつつ、身体を起こす。コタツに入りながら寝てたせいで 背中が痛い。いつかは身体壊すな、これ。今日はコンビニで買ってきた100円ちょいの缶ビールに、おつまみ。安いけど、これがまた絶妙なコンビなんだよな。何オヤジみたいなこと言ってんだか、と突っ込みでも入りそうなノリだが、生憎少し気持ちが悪い。台所に行き、昼間洗っておいたコップにミネラルウォーターを注ぎ、一気に胃に流し込む。気持ち楽になったが、それも束の間。とりあえず、ベランダに出て外の空気でも吸いに行く。

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空白 異世界攻略班 @himajinnto

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