【閑話】酒と唐揚げと気力の死骸
一応女なので、ふと宝石が欲しくなった。都心部の有名なストーンショップで色々見て回った結果、シルバーの指輪だとかトルマリン鉱石のピアスだとかに心を惹かれつつ惑わされつつ、最終的にストロングゼロ(レモン)を買って帰路についた。
宝石はウィンドウショッピングで満足したし、そもそも予想より高かった。ストロングゼロは予想を裏切らない値段なので安心である。
世に出ている缶チューハイの中で一番罪深いのがストロングゼロだと思う。確かテキーラ三杯分のアルコール含有量だとか、そんなことをテレビで見た気がする。一本飲むだけで結構回る。出張の時にあれをパシュッと開けて飲み干すと、とても退廃的な気分になれて良い。
実はそんなにホテルで酒を飲んだり煙草を吸ったりしないのだが、長期の出張だとか、あるいは変に時間が余ってしまう場合はコンビニで酒を買うことがある。
歴戦の猛者の中には焼酎を瓶で持ってくる人もいるようだが、流石にそこまで酒に貪欲にはなれない。缶チューハイと簡単なツマミぐらいで丁度良い。
秋に行った出張は、朝の集合が五時と早い代わりに十五時で解散というスケジュールになっていた。ホテルはすぐ近くなので、結構時間を持て余す。なのでホテルに戻る前にコンビニで例の液体を購入した。唐揚げに合うらしいので、唐揚げ的なものも一緒に買った。こうして人は情報に踊らされるのであるが、私は踊るにしても全力でヒップホップをする派である。唐揚げと一緒に食べたら美味しいだろうな、という安易な理由でチーズも買った。
ホテルに戻り、まずは一服。それから雑務を片づけて、シャワーを浴び、さっぱりとしたところで缶の封印を解く。この瞬間が一番気持ちが良い。色々な背徳やら怠惰やらをアルコールで洗浄してやろう、みたいな気分になる。
少し冷えてしまった唐揚げとチーズをツマミに、酒を飲む。美味しい。喉が焼ける。美味しい。語彙力というか知能指数を積極的に下げながら、何か忘れていることを思い出す。でもそれが何かは思い出せない。なんだろうなー、とひたすらに酒を流し込む。唐揚げから滲む油がアルコールと混じりあって、食道をザリザリ撫でていく。
バラエティ番組を見ながら暫く一人酒に興じていると、六時を目前にして突然「忘れていたこと」を思い出した。
ボーナスの査定に必要な「個人評価レポート」の提出期限だ。すっかり忘れていた。というか思い出しては忘れることを繰り返したまま今日まで来てしまった。
慌てて会社のパソコンを開き、一か月前に配布されていたファイルを起動する。悲しいほどに真っ白な画面が映し出された。お空綺麗。
アルコールで緩んだ頭を回転させながら、必死に内容を打ち込んでいると、上長から電話が掛かってきた。はい、用件はわかっています。
「個人評価レポート出しました?」
「すみません、五時から仕事だったのでホテル戻るなり寝落ちしてしまって」
寝落ちとかそういう問題ではないし、普通に酒飲んでただけだし、そもそも早く出しとけよという話なのだが、向こうは同情的な言葉を返してくれた。
「今すぐ出します」とナチュラルに嘘をついて電話を切る。ボーナスは大事だ。仕事をしている証だ。金のためならアルコールくらい即座に消滅してやる。そんな気持ちで書き上げたものを上司に送り付け、その後に残っていた酒を飲み干して眠りについた。
先日、無事にボーナスが振り込まれて、提出したレポートもコメント付で戻ってきた。「こんなこと書いたっけ?」という記述が少々あったが、特に問題は無かったので良しとする。
そんなことよりボーナスだ。多くはないが少なくもない額。何買おうかなー。偶にはアクセサリーとか、宝石とか買おうかなー。ということで冒頭に戻る。
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