デリケートは死んだ
もう結構良い年なのだが、社会的常識が身についていないからか、あるいは単純に愚かだからかはわからないが、一緒に働いている人達には実年齢より低い扱いを受ける。先日など何の話の流れか忘れたが、「こんな大人になっちゃ駄目だよ」と諭された。月曜の夜に煙草吸いながらホッピーを飲む私は、どうやら子供だったようだ。淡島かりす、永遠の十七歳です。
先日、昼休みに移動しようとしていたら新人たちがカップ麺の話題で盛り上がっていた。某有名店のラーメンを完全再現、と謳っているもので、コンビニで最近よく並んでいるパッケージだった。
「美味しいけど本物知らないから、再現出来ているかはわからないんですよ」
「行ってみればいいのに、近いんだから」
「いや、一人でラーメン屋とか無理です」
そうなのか。何が無理かよくわからないけど、無理強いするものでもないので引き下がる。しかし後輩たちの話はまだ続いていた。
「ラーメン屋とかで、もし相席になったらと思うと怖くない?」
「わかる。怖いよね。緊張して食べられなくなりそう」
そういうものか。
昨日一人でラーメン屋に入って、知らんオッサンと相席だった自分は複雑な感情で口を開く。
「そういうものなの?」
「淡島さんは違うんですか?」
そんなデリケートなことを言っていたら出張先で餓死する。食事を摂れる時に摂っておかないと痛い目を見るし、そんな時にラーメン屋に一人は嫌だの、相席は嫌だの言っていられない。
「別に一人でどこでも入るよ。回転寿司でもカレー屋でも焼き肉でも」
「え、すごい」
「いつでもどこでも食事は摂れるようにしないとね。酷い時は食べられないし」
「食べられない時どうするんですか」
「食べないよ」
後輩たちがきょとんとする。だって食べられないのだから仕方がない。二食分くらいなら抜いても問題はないし、後でその分食べるだけだ。
「食える時はコンビニの駐車場で飯食ったりするからね」
「もうそれ次元が違うじゃないですか」
ドン引き状態の後輩たち。そんな顔をしなくても良いだろう。こっちは生きとし生きる者の中の一員として生存本能に従っているだけなのだから。
そういえば出掛けるところだったことを思い出して、身支度を整える。
今日は昼食をどうしようか、と考えたが、中途半端にラーメンの匂いと食事の話をしてしまったせいか空腹感がない。まぁいい、今日は作業場の近くにコンビニもあるし、カフェもあるし、食堂もある。飢えることはないだろう。大事なのは生き延びることである。
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