戦い方は無限

 モンスターハンターの発売日に会社で雑談をしていたら、若手が「高校時代は年頃だったので、双剣でした」としみじみ言うので笑ってしまった。言わんとすることはよくわかる。私も年頃だったので双剣だった。今はあのゲームはしていないが、もしやるとするなら最初は双剣だと思う。そして尻尾を切るために太刀に変更するまでが1セット。


 共通のモンスターを倒すのに様々な武器や戦闘方法があるのと同じように、仕事でも複数の人間が集まると複数のやり方が生まれる。

 先週、某病院でサーバのセットアップをしていたところに企画部のYさんがやってきた。新しく実装したシステムを試して欲しいと言う。いいですよ、と受け取ってから一時間後にインストールと初期設定を終えて、Yさんを呼び出した。


「これ、明日ここでプレゼンするんだよねー。だから予めエラーとかないか見ておこうと思って」

「開発部は待機させてるんですか?」

「うん、N君が窓口だよ」


 そんな会話をしながらシステムを弄っていると、不具合を1つ発見した。そんなに目立つものでもないが、新製品として紹介するのには些か格好悪い不具合だった。


「直してもらったほうがいいんじゃないですか?」

「電話してみるよ」


 Yさんが電話をする傍らで、私は他の場所も操作する。

 YさんはNさんと現象の説明と対策について話をしていたが、現場を知らない者同士が話しているせいでどうにももどかしい。なんだその「ログインに失敗することが前提」のシステムは。そんなの実装しないで欲しい。

 溜息をつきながら別の画面を操作していると、今度は致命的エラーが出た。


「N君、赤いエラーダイアログが出たよ」


 Yさんは興奮気味に相手に言うが、電話の向こうのテンションは「はいはい、そーですか」みたいな調子だった。埒が明かないので電話を替わってもらう。左手に携帯電話、右手にはマウス。視線の先には新システム。完璧な配置だ。


「淡島ですけど」

「あ……現地にいるSEって淡島さんですか」


 心なしか面倒そうに言われたが、構わないので続ける。

 開発部からは「あいつに外部検証やらせると出荷停止になる」と言われているので、そのせいかもしれない。でもそれは私のせいじゃない。

 企画部ではなくて技術部が相手ということで、Nさんは諦めたようにエラーの詳細を聞いてきた。


「~~ってエラー出たんですけど、これって何ですかね」

「~~、ですね? ちょっと調べるので時間下さい」

「あ、Yさんじゃなくて私に連絡下さいね」


 一度通話を切ると、ログファイルを開いて処理を確認する。出力されているクラス名やらコードやらは全くわからないが、大体どのような順番で処理をされるかはわかる。因みに私のような人間が見ると、全ての内容は「エコエコ.アザラク.ザメラク」と書いてあるようにしか見えないので、理解は早々に諦めている。


 エラーが起きている箇所でデータベースを参照していることが分かったので、該当のデータを確認する。一見すると何の問題もないように見えるが、よく見ると「0」が一つ欠けているコードがあった。


 なるほど、それで設定が取得出来なかったのか。

 ということは、此処を修正すれば……。


 原因追及から数分後、私の携帯にNさんから着信があった。


「原因わかりました」

「AテーブルのBレコードでしょ」

「あれ、よくわかりましたね。こっちでソースをデバッグしてパターン入力していたら同じエラーが出て来たんですよ」

「ログ追ってデータの確認したんですよ」


 二人で同じ原因に行きついたので、満足して設定を変える。

 慌てて設定を変えるのは、このような場合は致命的だ。新システムでどのデータがどの動作に影響をしているかなんて未知数だからである。


「それと、外にも不具合ありましたよ」

「またですか……。というかYさんは?」


 そういえば途中からYさんの姿が無かったな、と思い出して辺りを見回す。検証を私に任せて、どこかに休憩でも行ったのだろうか、と内心不満に思っていると、どこからともなくYさんが戻ってきた。


「いやー、ごめんごめん。お客さんに明日のプレゼンでエラーが出ても見逃してもらえるように話をつけてきたよ」


 なんて仕事の早い。

 確かにエラーが出るかビクビクするよりは、そちらのほうがマシかもしれない。

 電話口からはNさんのどこか明るい声が聞こえた。


「じゃあ修正しなくてもいいですか?」

「修正はして下さい。あと五個ぐらい不具合出します」

「出さないで下さい」


 懇願する声は無視して電話を切る。

 それぞれのやり方が違えども、帳尻が合えば良いのだ。合わない時もあるが、それはそれである。気にしたって仕方がない。

 とりあえず私は双剣で斬り込まずに、ガンランス構えて突撃したい、そんなお年頃である。

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