やるべきことは終わらせましょう

 最近やっている案件は、納期とやることの量が全く見合ってないのに、私が作業できる時間は更に短いと来ている。誰だよ、こんなスケジュールにした奴は、と全方向を呪いつつ仕事をしている。作業メンバは十人余り、そのうち同じシステム担当は私を入れて二人である。


 私もその人も、どちらかと言えばふわふわした計画の元に仕事をしている。勿論毎回、ちゃんと納期は守るし問題点も潰すのだが、傍から見ると「大丈夫かあの組み合わせ」となるらしい。本人同士は割りと平和である。


 その人とは数年前に、あるプロマネの下で一緒に仕事をしていた。所謂「幹部候補」だったプロマネは、厳しい反面、ちゃんと個々人のやることを決めてくれたので、それを守っていれば良かったので楽だった。

 今回のプロマネは、有能ではあるのだが個々人にタスクを任せきりにしてしまうので、自分たちで色々考えて動く必要がある。時間のある案件ならいいが、稼働まで一ヶ月を切っている場合は話が別だ。


「そう考えると、あのプロマネは楽だったんだよねぇ」


 間延びした声で相手がいうので、私は相槌を打ちながら煙草の煙を吐いた。

 某駅から現場に向かう車の中、外は台風の影響で大雨が降っている。現場が離れているのうえにバスの本数も少ないから、車で行こうと頼んだのが功を成した。雨の日のバスはジメジメしているので苦手である。


「考えなくて良いですもんね」

「そうそう。俺らみたいなタイプはさぁ、自分で決めるの苦手だし」


 なんかさり気なく同類項で括られた気がするが、まぁ良しとしよう。

 私は人をまとめるのとか、きちんと順序立てて物事を進めるのは苦手だし、やれと言われても出来る気もしない。


「仮に俺がプロマネだったら、皆に指示なんか出来ないし、聞いてくれないと思うんだよねぇ」


 想像したら寒気がしたので、冗談でもそういうことは言わないで欲しい。

 お互いに立ち位置が近いから仲良くやっているが、万一にもこの人がプロマネになったら私は一人カラオケ屋に向かって、延々八時間『ハチのムサシは死んだのさ』を熱唱する。それぐらいの絶望だ。


「あれ? そういえば今日って淡島さんは何するの?」


 いや、私を呼んだのは貴方でしょう。

 私が自分で行きたいだなんて言うものか。基本的に引きこもり体質なのだから(でも夏の北海道は積極的に行きたい)。


「前にもあのプロマネの下でやってる時に、同じこと言ったでしょう」

「言ったね。それでお互いに「まぁ適当にやっとくか」って言ったら、プロマネに怒られたね」


 そりゃ相手が適当な理由で呼んだのに、私がテキパキしてたら変だろう。というかそういう対応をしたが最後、この人は更に適当になる。そんな予感がする。


「でも俺とは仕事やりやすいでしょ?」


 やりやすいというか、なんというか、もう腹括るしかないというか。

 間違っても信頼関係ではなく、どちらかというと諦観に近い。それをポジティブに変換する相手に呆れつつ、私は溜息を吐く。


「まぁやるべきことは終わらせましょう」


 兎にも角にもそれからだ。何しろ三日後にはシステムが動いてしまうのだから。

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