指導力はゼロに近い

 新人の指導をしていて「この一連の操作について詳細に記載してみようか」と言ったら「マウスを握り、左側に移動し、右のボタンを人差し指で押します」と書いたものが戻ってきてどうしようかと思った夏の日。まぁ詳細と言えば詳細だけれども。


 ここ数日、新人の面倒を見ているのだが、やはり指導力の低い私では色々と行き届かぬ箇所が多い。というか新人も可愛そうだな。出張族だらけの部署に配属なんかされちゃって。頼れる先輩達は北海道と九州と四国に出張中。残っているのは私だけだ。


 誰しもその人に合った学習方法というものが存在すると思う。あるいは慣れ親しんだ、と言い換えても良い。私の場合、実践型である。わかろうとわからまいと、兎に角最初はやってみて、試行錯誤を繰り返して体得していく。座学が苦手だというのも原因の一つであるが、失敗したほうが覚えやすい。

 新人はどうもそういうタイプではないらしく、座学で全て終わらせようとする。課題になかなか着手しないと思ったら、質問が大量に飛んできて驚いたのだが、どうやら「一発で完璧に仕上げなきゃ」という固定概念があるらしい。


 いや無理だって。

 君の能力は知らないけど、教えるのは私だからね。私は座学だけで全て理解させる能力なんか持ってないって。


 なので、まずはコーディングをしてもらおうと試みているのだが、なかなかやってくれない。やってもエラーが出た途端にフリーズしてしまう。「エラーメッセージの内容で検索して」と言ったら、一発で完璧な検索結果を求めてしまって、これまたフリーズした。


「最初から答えに行き着くのは無理だよ」

「はい」

「まず小さいところから取り掛かって、段々と出来る範囲を増やしていかないと」

「確かに」


 あ、ダメだ。これ通じてない。こういうトーンの「確かに」は理解していないことが多い。

 しかし私の指導力不足が原因の一端なので、どうにかしないとな、という気持ちは有る。気持ちはあるけど、若手の指導とかしたことないからわからない。ついつい、いつもの仕事のトーンになってしまって、同僚に「もうちょっと優しく」と窘められた。


 難しい。本当に難しい。

 宙を見上げながら思い浮かんだのは、大学時代に家庭教師のバイトを一日で放り出した記憶だった。私みたいな人間に指導とかさせてはいけないのである。

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