昼休憩をいつ取るかという問題

 稼働立会の時は、二手以上に分かれて食事に行くことが多い。何故なら誰もいなくなってしまうと、その間に発生したトラブルに対応出来なくなるからである。対応出来なくても良いが、そもそも誰もいないとお客さんに「何飯食ってんだ」状態で責められるので、やはりこういう分散は必要だ。


 例えば現場に八人いたとして、余程の事情がない限りは四人づつに分かれる。専門システムの人間が最低一人は現場に残るように調整するのだが、何しろやっていることがバラバラなので、なかなか集まらないことが多い。自ずと食事に行く時間は後になっていく。

 先発組が十三時に食事に行ったとすると、後発組は十四時に食事にありつく。基本的に稼働立会は朝の八時ぐらいからなので、かなり働いた後で食事を得ることになる。


 しかし私はどちらかと言えば後発組に入るのが好きである。

 昼食を仕事の区切りと考えているので、昼食が遅い=午後の仕事が短い! と認識する。脳みそをだいぶ誤魔化して生きてるな、という気がしないでもないが、これも社畜を乗り越える術である。


 ある仕事で地方にいった時のこと。

 例によって作業が山積みだったので、昼休憩は後発組に入ることにした。しかし、後発組は皆忙しくて、なかなか食事に行ける状態ではない。先発組は殆どが新人で、戻ってきたからといって仕事を引き継げる状態ではなかった。


 「食事行ける人ー」「無理でーす」「俺もー」みたいな会話が何度か繰り返された後に、全員が揃って食事に行く選択肢は放棄された。病院内の売店で何か買って、それを食べることになった。食べないよりはマシである。

 因みに私は平素なら三食ぐらいは抜いても問題ないが、頭脳労働真っ盛りの時は流石に何か食べたい派である。


 大きな病院の場合は売店が必ず併設されている。しかし、そのクオリティは大きい=良いではない。大抵は入院に必要なもので埋め尽くされていて、食べるものは少なかったりする。

 その時の売店もそんな感じで、しかも雨天だったためかパンやおにぎりは殆ど駆逐されていた。幕の内弁当はあったが、どうにもあの手のものは苦手である。


 大学時代に演奏の遠征で福島に行っていたことがあるが、そこでは夕食は常に幕の内弁当だった。冷えたご飯とベチャベチャになったエビフライが仲良くハーモニーを奏でていて、辟易したものである。確か同じ演奏チームの奴に大半を食わせていた気がする。そのぐらい好きじゃない。

 大体、弁当買ったところで食べるスペースないし……と思いつつ、サンドイッチないしはオニギリに似たものがないか探していたら、一つだけ該当するものを見つけた。シベリア。


 シベリア。それは東日本で主に売られている……和菓子なんだか洋菓子なんだかわからない物体。

 外見は羊羹をカステラで挟んだように見えるが、実際にはカステラと羊羹が癒着している、地味に面倒な工程を経て作られているもの。大正時代にはどこのパン屋でも作っていたとかいないとか言われる、子供向けのお菓子。


 これかぁ。

 いや、シベリアの名誉にかけて言えば、長く日本人に愛されてきたお菓子である。かつてはハイカラ女学生が喫茶店で食べていた、今日で言えばタピオカみたいなものだ。

 それに、作業の片手間に食べられそうなものはこれしかない。まさか煎餅をバリボリやるわけにもいかないだろう。カロリーメイトは砂漠みたいであまり気が進まない。ゼリー飲料は悪くないのだが、一瞬で食べる作業が終わると昼休みを無駄にしたみたいで勿体ない。


 という様々な妥協の上で、シベリアとカフェオレを購入する。

 作業場に戻ってシベリアを口にすると、想像以上の甘さだった。脳みその栄養補給にはいいよね、とか、疲労回復には甘いものだよね、とか理性でどうにか抑え込もうとしたが、甘すぎる。というかカステラが口の中の水分を全部持っていく。水分を失った舌を羊羹がビリビリするような甘さで撫でていく。


「淡島さん、おやつ食べてるの?」

「昼飯ですよ」


 不機嫌に答えながら、室内の時計を見る。

 時刻は既に三時半。確かにおやつでもいいかもしれない。

 というか、何も無理して炭水化物取らなくても良かったんじゃないかな、これ。チョコレートとかでも十分に用は足りた気がする。


 食事を食べたためにスムーズに回転を始めた頭は、この食事を得た過程に対する後悔やら反省やらを次々と出してくれた。やはり適切な時間の食事は大事である。後発組に入るのも程々にすべきだと感じた。

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