致命的なミス
ここ数ヶ月ぐらい、自分の作品を製本して遊んでいた。完全に趣味の領域である。印刷所から戻ってきたのを見てはしゃいでは、しかし中を見てガッカリする。いつも入稿前には何度も見直すのだが、それでも致命的ミスをいくつかしてしまう。
誤字や誤変換などが非常に多い。これは恐らく、私が文章を書く時の悪癖にある。
下書きやプロットというものを作らずに書いてしまうので、見直すという工程が欠けているのだ。そして、頭の中で一気に文章を作ってからアウトプットするために、誤字があっても気付かない。何故なら頭の中には誤字というものが存在しない(勘違いはあるだろうけど)。「こう書いてあるだろう」という思い込みがあってチェックをするので、チェックの意味が無い。
仕様書でもよく誤字をする。別に「操作画面」を「捜査画面」としたところで誰も困りはしないのだが、こういうのも数カ月のスパンを置かないと気が付かない。そしてそれに気付くと同時に、仕様のミスにも気がつく。
これをそのまま作ったら、永遠にログアウト出来ないじゃないか、とか。ここで取得する値が一個ずつズレているじゃないか、とか。
まぁそういう場合は開発部にメールを送って平謝り。どうにか修正してくれないかとお伺いを立てるのである。仔細な記載ミスなら許してもらえるが、どう考えてもそれは仕様変更だろう、という場合にはリスケジュールが発生するので、案件の予算からお金を出す必要がある。
先日も仕様書のミスに気がついたので、速攻で開発部に謝罪のメールを打った。
五分後に、担当者から電話が掛かって来た。
「これ、マネージャーさんに聞いたら、この仕様だって言われたんですけど」
「あぁ、すみません。私が書き間違えていたみたいで。本当はこういう仕様なんですよ」
「いや、違うくて」
電話の向こうで担当者は当惑した声を出した。
「最初はその仕様で書いてありましたよ。マネージャーさんが書きなおしたんじゃないですか?」
どういうことだ、マネージャー。ちょっと説明しろ、マネージャー。
喫煙室で煙製造機になっていたところを捕まえて聞いてみると、私の仕様を勘違いして理解したらしい。開発部から問い合わせがあった時に、「淡島のやつ、仕方ないな。こっちで直してやろう」という親切心から書き換えたというのだ。
「いや、それは標準仕様の場合でしょ? 今回はベースが違うからその方法は取れないって言ったじゃないですか」
「あー、そういえば」
そういえば、じゃない。
だから何度も、仕様がわからなければ手を出すなって言っているのに。聞かれれば説明すると言っているのに。あと仕様がわからないまま客先で説明しないで欲しい。毎回毎回、横から吉兆の女将の如く囁くのは飽きた。
そんな小言はとりあえず飲み込んで、開発部に修正をお願いするように依頼する。
自分の過ちなら何度だって謝るし、後輩のミスなら庇ってやるが、上の人間の尻拭いは真っ平御免である。
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