欲しい物が見つからない
執筆するのに、どうも今のパソコン(無職の時に暇だから作ったOpenSUSE)が使いにくくなってきた。別にアプデのお知らせが英語だから読めないとかではない。規格が変わっちゃったものを最新版に適用しようと思ったら英語だったからわからなかったとかではない。まぁ三年ぐらい前に買った型落ちノートPCがあるから、OSだけ買ってこようかなとか考えている。
前の会社で使っていたノートPCは確か16インチの大きいやつだった。WindowsXPだったかVistaだったかが入っていたが、まぁそれは忘れた。問題は会社から貸与されていたのがPCカード型のAirHだったことである。
何言ってんだ、この社畜と思った方のために説明。
今は無線通信機と言えば、ポケットWiFiとかUSBで本体に挿して使う小型のものが主流であるが、十年ぐらい前まではカード型の通信機が存在した。それをノートPCに挿して、カードの隅に付いている小さいアンテナを立てて通信を行うのである。
だが、私が社会人になった時にはそれは既に下火も下火。何しろ当時のノート型端末の殆どにはAirHを差し込むための「PCカードスロット」が無くなっていたのである。これでは折角の通信機が無駄である。
会社に事情を説明して、他のタイプのインターネット通信機をくれと言ったら「他にPCカードスロットついてるパソコン持ってる奴に借りればいいだろ」と言われた。今の私だったら「承知しました。週報も月報も出さねぇから覚悟なさいまし」と言い返すところだが、当時はまだ純粋な質だったので泣く泣く引き下がった。
そしてその次の日曜日に某大型電機屋に赴いた。
USBで接続する外付けドライブがあるんだから、外付けPCスロットもあるんじゃない?
そんな単純な考えで足を踏み入れた巨大電気屋。
まずはそういったジャンクな品が多そうな、自作PCコーナーに向かった。想像通りに外付け型のDVDドライブとか、SDカードスロットが置いてあった。でも外に何も書いていないダンボール箱が多く、この中に自分の目当てのものがあるのかわからない。途方にくれていた私に、店員が話しかけてきた。
「パソコンをお探しですか?」
「えっと、PCカード……」
「あ、ノートパソコンは下の階ですね」
あれ、と思ったが相手は大真面目だ。
PCカードが別の単語に聞こえたのかと思ってもう一度言ってみたが、やはり被せ気味にノートPC販売エリアを教えてくれた。
「違うんです。パソコンは欲しくないんです。ノートPCにPCカードスロットが無くて通信機のAirHが挿せないから、外付けのPCカードスロットを探しているんです」
するとその店員さんは、別の店員を呼んでくれた。
どうやらこの人が案内してくれるらしい。別の階だというので黙って着いて行くと、着いた先は携帯電話の新規契約窓口だった。
「新しい通信機……携帯電話をお探しということですので」
違う。何もかも違う。
私はちゃんと説明したではないか。どういう理由で何が欲しいのか、明確に。なのにどうして、ノートパソコンを勧められたり、携帯の新規契約を勧められたりしなければならないのか。この電気屋にはお耳の中にウナギでも飼ってらっしゃる方が多いのか。
絶望しかけたのだが、ふと気がつく。
その日、私が着ていたのは着物だった。市松模様で竹久夢二の絵柄から着想を得た楚々とした可愛い柄の。趣味で着ているものだから、土日ぐらいしか袖を通せなくて、だからその日は出かける用事のある絶好の日だった。
まさかと思いつつも、相手に言ってみた。
「……私、システムエンジニアなんですけど。パソコンも携帯も知ってます」
「あっ。……失礼しました」
要するに、着物を着ている若い女だから、パソコンとかテレビとか携帯とかに疎い馬鹿だと思われていたというわけだ。通信機とかカードとかも、相手には先入観で「こんな奴がパソコンや携帯のことなどわかるわけがない」と思われていたから、何度言っても通じなかったのだ。誠に腹立たしいことである。
因みに知人に愚痴ったら「電機屋に着物なんか着ていく方が悪い」といった意味のことを言われたので、それ以後は積極的に着物を着て電機屋に行っている。嘘みたいな話だが、世の中こんなものである。
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