男女の機微
女が少ない職場である。結婚している人は殆ど居ない。
そして出張で地方に行くと、やることもないから酒を飲む。大人数のことは稀で、三人とか四人とかが一番多い。二番目に多いのは二人だ。
そうなると発生するのが「あいつとあの人は怪しい」みたいな噂である。小学生から進化していない。しかし中途半端に大人だから、そこに不倫疑惑みたいなものも顔を覗かせたりする。
ある男性社員と女性社員が不倫関係にあるのではないか、という噂が何年か前に発生した。なまじ皆、出張ばっかり行っているものだから、噂は野を越え山を越え、あっという間に全国に拡大した。途中で人事異動があったのも拡散の原因だったかもしれない。
つい最近のこと、北海道に出張に行った際に、そこの支社の人と晩御飯を食べに行った。美味しい海産物を貧乏舌で味わいながら酒を飲んでいると、案の定と言うべきか、その話題が出てきた。
「でさぁ、営業のGさん覚えてる? もう辞めたけど」
「はい。会ったことは一回だけですけど」
「その人がさぁ、この手の噂が好きだから喋りまくってたんだけど、女性の方が淡島さんになってたよ」
何で?
この清廉清楚を絵に描いたような私が、そんなことをするわけがない。というか、面倒くさい。百歩譲って少年隊のヒガシなら考えなくもないが、何が悲しくて腎臓と肝臓を酒浸しにしたオッサンと不倫関係にならなくてはいけないのか。
「Gさん、私のこと殆ど知らないでしょ」
「多分、噂話の又聞きで勘違いしたんだと思うよ。ほら、背格好似てるし」
にしたってあんまりだ、と酒を口に運びながら言うと、相手は良い笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ、ちゃんと皆で否定しておいたから」
「本当ですか?」
「うん。「淡島だけはない。絶対に無い。想像しようとしても無理。あいつだけはマジでない」って」
うん。何か違う。
いや、否定してくれていいのだが、否定の仕方が変じゃないか?
なんか「淡島と付き合うなんて気色が悪い」ぐらいの勢いで言ってない?
「そこまで否定します?」
「だって淡島さん、デートに行くぐらいなら一人で酒飲んでるでしょ?」
まぁそうなのだが、やっぱり釈然としない。
女性らしさが足りないということなのかなぁ、と悩みながら飲んだ「海(芋焼酎)」のロックは美味しかった。
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