似て非なる同じもの

生姜とニンニクを一欠片加えた油を鍋で熱する。

挽肉200gをぶち込み、やや火が通って勝手に解れるまで待ってから焼く。


豆板醤、甜麺醤(または味噌) :大さじ一杯

砂糖、鶏ガラスープの素、醤油、片栗粉 :小さじ一杯

水 :150ml~200ml

これらを混ぜたものを鍋に入れる。


火を中火にしてかき混ぜながら、とろみが出るのを待つ。

春雨(レンチンで少し柔らかくしておく)を入れる。

じっくり煮込んだら、麻婆春雨の出来上がり(所要時間15分)


 悲しいことに、私がちゃんと出来る料理はこのくらいである。あとは、野菜を醤油とみりんと酒で炒めておけばいいと思っている。

 上記レシピも、ちゃんと麻婆を作ってる人が見たら、「驚いたな、最近のままごとは進んでやがる」と言いながら殴られそうなほどに適当なものだ。

 作ってみればわかるのだが、市販の麻婆とは見た目がかけ離れすぎているし、色もそんなに良くはない。とろみも申し訳程度だから、ドロリとした食感が好きな人は拍子抜けするだろう。

 だが味はちゃんと麻婆なので、麻婆だと言い張る。だって麻婆だもん。本当だもん。トトロいたもん。



 先日、ある病院の稼動立会に呼ばれた。

 行ったら何やらシステム担当が困った顔をして、プロマネと話し込んでいた。どうしたのかと聞いてみれば、前のシステムにある機能があったのだが、それに気付かずに構築をしてしまったらしい。

 前のサーバからその現物を見せてもらうと、JavaScriptで作られた集計ツールのようなものだった。といっても、そんなに複雑ではないし、あくまで「大体の数を確認したい」時に使う代物らしい。

 どうしよう、と沈んだ顔で呟く担当者。プロマネも他の問題を抱えているために、顔にはハッキリと「お前がどうにかしろ」と書かれている。


 でもコレ、現物は残っているのだから、新しいシステムに適合出来るように細部を調整すれば使えるのではないか?

 そう思って、サーバの中に残っていたソース一式を吸い上げると、作業用の端末にぶち込んだ。周りは「淡島が何かしてるな」程度の認識で、何も言ってこないので楽である。幸い、端末には賢いテキストエディタもあったので、すぐにソースの中を確認することが出来た。


 だが悲しいことに私はさほど開発技術がない。いや「さほど」と言ったら自己評価が高いと上司に骨片を投げつけられかねない。そんな人間である。

 どこが新しいシステムに適していないかはすぐにわかったのだが、どんなに慎重に直しても、どんなに調整をしても、画面を起動すると従来の物と比べてレイアウトが崩れる。機能は満たしてあるけど、なにかが違う。どうしてこうなるのかはさっぱりわからないが、違うことだけは私でもわかる。


 ちょっとリフレッシュしてこよう、と外に行って煙草を吸った。最近は禁煙気味なので、一ミリの軽いやつである。それでもちょっとは脳がスッキリする。

 もしかして、OSの問題だろうか。あるいは自動補正機能が邪魔をしているのか。でも実際、新しいシステムのデータを全部出すためにパーツを足してるし……。

 色々悩みながらも休憩を終えて戻ってくると、担当者が作業端末を覗き込んでいた。


「これ、作ったんですか?」

「いやまぁ、修正してみたってところですが……」


 レイアウトが崩れるんですよ、と言おうとした時だった。担当者は苦笑しながら画面を指差した。


「でもこれ、画面変じゃないですか?」

「変ではないです。どこが変なんですか。目の中に屈折レンズでも搭載しているんですか」


 強気で言い返した私を見て、担当者は慌てて目を逸らした。

 誰が何と言おうとも、これは前のシステムで使われていたのと同じものである。今、そう決めた。異論は認めない。


 五分後、レイアウトをイメチェンしたツールは、無事に新しいシステムに組み込まれた。

 大事なのは見た目ではなく中身である。

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