出張の荷物と存在感

 不運な体質だが、私と良い勝負の不運な男性がいる。

 皆で食事をしている時に、大抵は出張の時の話題になるのだが、「新幹線が火災で止まる」のも「飛行機が飛ばない」のも「ホテルの部屋にゴミが落ちてる」のも「浴室の電気が急に切れる」のも、滅多にあることではないらしい。

 「え、頻繁にありますよね?」「あるよ」と、その男性と認識合わせをしたのは良い思い出である。仲間がいると心強い。


 不運とは全く関係のない、いわば自らの失態だが、ホテルにパンツをよく忘れる。

 洗濯したものを浴室に干しておくのだが、その存在を忘れて帰ってしまうのである。しかし、後から気付いても「そのパンツを着払いで送り返してほしい」なんて申し訳なくて言えない。

 まぁ、パンツなんて紛失するためにあるものだ。逐一考えていても仕方がない。形ある物いずれは壊れる。パンツたるものいずれは消える。あんなものに振り回されては、この世の中を生き延びれない。


 出張中の荷物は極力小さくまとめたい。

 衣類圧縮シートは便利である。特に冬にはセーターが幅を取るが、圧縮してしまえばどうということもない。そんな話をしていたら、妹が気を利かせて圧縮シートを山ほどくれたが、全部掃除機で真空にするタイプだった。出張先では使えない。

 世の中には掃除機を使わなくても圧縮できるタイプがあるのだと、妹にはよくよく言い聞かせておいた。別に私が掃除機を使えないわけじゃない。家に掃除機はないけど、使える。きっと。多分。


 スーツは特段長い出張でもなければ替えは持って行かない。ブラウスの類は所持しておらず、綺麗めなカットソーを使っているので、これも収納時には手間がかからない。米軍式カットソーの畳み方というものを何年か前から採用しているが、小さくまとまる上に皺にもなりにくいのでオススメである。

 化粧品は持っていかなければ話にならないが、小さいポーチにまとまるようにしている。髪の手入れに使う櫛はタングルティーザー。乾燥しがちなホテルの夜にも効能を発揮してくれるし、何より小さいのが良い。


 ただ、どうにもならないのがブラジャーだ。ワイヤーなしの平たいのを持って行っても、あれだけはカットソーみたいにぐるぐる丸めるわけにもいかないし、圧縮も出来ない。あいつは繊細なのである。形の崩れたブラジャーを付けるとバストも崩れる。バストが崩れると肩も凝る。肩が凝ると(以下略)。もういっそのことスポーツブラとかにすれば解決するかもしれないが、そこまでしたくない。

 なので、どうしても長期出張の際は、最低三つぐらいのブラジャーによるスペースが生じる。この存在感に比べるとパンツなど布切れ一枚。塵芥のようなものである。

 だから忘れても仕方ない。

 こうして家に上下が揃わないものが増えていく。

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