半休は上手に使う
基本的に私の仕事というのは、「別に何時間かかろうとも、規定の日付までに規定のものが完成していれば良い」という、結構緩いものである。いや、作業内容は緩くないが、就業態度的な意味の話だ。
休日出勤や深夜作業も多いので、自分でその辺りは調整しなさい、と会社も暗に言っている。やることもなく八時間、会社でだらだらしているよりは有意義だ。でも流石にそんなことをするのは会社の外で仕事をしている時だけである。社内でやっていたら新人を混乱させてしまう。ただでさえ、仕事の仕方が特殊すぎるので、会社からは「反働き方改革」と呼ばれているというのに。
インフルエンザが流行した時も、社長に「そこのチームは病院への出入りが多いんだから気をつけなさい」と言われた。「大丈夫ですよ、我々が倒れるのは過労の時だけです」と返したら怒られた。でも実際、病院に行くことにより免疫が付いているのか、インフルエンザにかかる人間がいないのである。掛かったらそれこそ噂話が一気に広がるだろう。
先日、仕事中にカッターで思い切り手のひらを切った。ダンボールを開封しようとしたのだが、持ち前の不器用が災いした結果である。左の掌を横一文字に裂いてしまって、血がベタベタ流れた。
あーぁ、と思いつつもバッグに常備している消毒液で傷口を洗い、ティッシュで血を抑えこむ。病院の地下で一人で作業中だったから、特に助けを求める先もない。孤独に痛みに耐えながら、頭の中でドラッグストアの位置を思い出す。
指でも切り落としたなら、今いる病院の救急外来にでも飛び込むが、切り傷でそんなことをしたくない。カルテに自分の名前がばっちり残るから、テストオーダとかの発行に使われてしまう。きっと皆、架空のデータで私を骨折させたり肺炎にかからせたり、一昨日入院して昨日退院して今日入院してとか、無茶苦茶なことをさせるに決まっている。だって私も他の人のデータでやったから。
ドラッグストアでガーゼ付き絆創膏と包帯を購入して、ついでに鎮痛剤も購入した。
皮一枚切れただけで出血だけは派手だが、そんなに深くはなかったので、帰る頃には殆ど止血出来ていた。代わりにダンボールの開封作業は遅々として進まなかったが、それは仕方がない。
その二日後、今度は会社のレイアウト変更の際に、隣の人と息が合わずに指を床とテーブルの間に挟んでしまった。最初は少し痛い程度だったのだが、段々と腫れてきてしまったので、近くの病院で診てもらうことにした。
時刻は一時半。まだ仕事が残っているので、午後半休で帰ります、とはしたくない。
総務に相談すると、中抜けよりも午後半休のほうが給料の上で損はしないと言う。助言には素直に従うタイプだが、手が痛いので申請は後にすることにして会社を飛び出した。
近くの病院は幸いにも空いていたが、診てくれたおじいちゃん先生には「君の名字は、どのあたりの出身に多いの?」とかよくわからない質問を受けた。知らん。少なくとも実家の周りは全部同じ名字だ。
処置してもらって、痛み止めと湿布の処方箋を貰ったので、薬局でそれを受け取ってから会社に戻った。大体一時間半ほどの抜けだったと思う。本当にこれ、午後半休のほうが得なのか? と疑問には思ったが、仕事は山積みだったので、そちらを片付けることにした。湿布と痛み止めが効いたお陰で、仕事はさくさくと進んだ。
そして結局、二十二時まで会社にいた。
なんだかよくわからない。
午後半休を取ったのに二十二時までいたなら、午後半休いらなかった気がする。
でも会社で作業している時に抜けるというのは、そういうことなのだ。何事もしっかりとした規則があってこそ、正常に物事は回る。
外にいる時は、ドラッグストアに行ってガーゼや包帯を買って、泣きながら自分で巻きつけていても半休扱いにはならない。でもその分、誰も心配はしてくれないし、的確なアドバイスも貰えない。
教訓:怪我には気をつけましょう
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