【閑話】ただ染みついて消えないのは煙草の匂い

 長いこと愛用していた煙草の銘柄が廃盤(?)になった。

 仕方がないので別の銘柄にしようとしたのだが、ここ最近は「スッキリ爽快」「口の中にブリザード」みたいな、お前は制汗シートか? みたいな煽り文句のものしかない。試しに買ってみたが、ミントを噛んでいるほうがまだ良いような味だった。

 あのメンソールらしさをしっかり残しながらも軽すぎない味に慣れすぎてしまって、今更別のものに馴染める気がしない。一昔前なら軽い気持ちで煙草をいくつか試せたが、最近は一箱五百円する。試しで買うには高すぎる。私は貴族ではないのだ。


 そういえば、あの煙草は学生時代に気になっていた男が吸っていた銘柄だった。

 当時、ジジ臭い国産煙草を吸っていた私は、新しいのを買いに行く時に同じ銘柄のものを見つけて、つい買ってしまった。それを「同じの買ったー」と言ってサークルの部室の前、饐えた匂いがする廊下で吸っていたのだから、今思えば相当気味が悪い。まぁでも相手もそれを見て買い替えたりしなかったから、特に悪印象は与えなかったと信じたい。

 うん、信じるのは大事だ。倉○麻衣の歌詞風に言えば、歩みを止めずに生きて行こうというやつだ。まぁ彼が今どうしてるか知らないけど。連絡先も知らないし。


 チョコレート味のする煙草も学生の頃に吸っていた。あれは重かった。甘いのに重かった。今更あれを吸うのも、遅れて来た中二病みたいで格好悪い。あと徹夜中にあんな甘いのを吸ったら、ぶっ倒れる自信がある。

 あれを吸いながらギターを掻き鳴らしていた若き日が懐かしい。


 何が言いたいかというと、不可抗力で禁煙しそうだということである。

 次の煙草を試すかどうかは、口の中をブリザードにしながら考えておく。

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