【閑話】感受性

 昔むかし、自分はあまりに社会に適合出来ていなかった。人の顔色とか、時間の経過とか、椅子の上に立ってはならないとか、そういうことがわからなかった。

 模試は国語なら全国一位だった。英語は最後から数えた方が早かった。私の中で英語は、本を読むのに必要なかったからだ。歴史は覚えた。物理のテストは教科書一冊丸暗記した。

 大抵の事は読めば記憶できたが、計算は面倒だからやろうとしなかった。本はページを捲れば次に行ける。数式を解く必要は無い。

 そんな成績だから、進路が物凄く狭められた。至極普通の大学に行った。そしたら、ある時突然に悟った。私という個体は周りと同じく独立した個体であり、同じ社会に他者と存在していると。


 社会に適合した結果、こうなった。

 それが良かったのか悪かったのかはわからない。少なくとも大学時代の知り合いが高校生の頃の私を見たら、あまりの性格の変貌に引くだろう。


 ところで社会に適合したら、失われたものがある。「ぶどうパンの中に隠れているレーズンを一発で探り当てる能力」だ。昔は「ここかな?」と思う場所を摘めば絶対にレーズンが出てきた。今はもう駄目である。

 別に無くても困らないのだが、偶に悲しくなる。

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