四季折々に社畜めいて

 最近、あれ? と思って色々確認してみたら、私の作品を読んでくれる方は海外在住者か経験者が多かった。

 まぁ昔から変に偏ることは多くて、仲のいい友達は九割が「四人兄弟の次女」である(私は違う)。だからこの偏りも、特に理由はないのだろう。そもそも私は関東生まれ関東育ち、国語の偏差値は85、英語の偏差値は20だった人間で、海外には縁がない。

 まぁ該当者におかれましては四季折々の社畜を楽しんで頂きたい。


 ゴールデンウィークなので、出張に行った。

 長期休みは仕事をするものである。平日になんぞやっていられない。

 まぁ流石にそれは嘘だが、どうせ仕事の依頼が来るだろうと思っていたら、案の定来たというだけだ。その一週間前に、別の場所で仕事をしていた時にマネージャーと話していたのだが、以下のようなやり取りがあった。


「ゴールデンウィークにI病院が稼働するでしょ」

「あれ、人足ります?」

「足りるよ。俺と、M君とHさんがいるし」

「Hさん妊婦でしょ?」


 私がそう言うと、相手は「そういえば」みたいな顔をした。そういえば、ではない。何を考えているんだ、この人は。


「稼働ってことは泊まりこみでしょ? 絶対無理ですよ」

「本人は大丈夫って」

「いいですか。Hさんは私と違ってとても謙虚なんです。私だったら「行けるわけねぇだろ、ばーか!」で終わらせますが、あの人には無理です」

「確かに……」


 そこで納得されるのも若干悲しいが、訴えたいのはそこではないので淡々と続ける。


「ゴールデンウィークで電車も混んでますよ。泊まりじゃなくて通いにしても、絶対キツいですって」

「だよねぇ……?」

「いいですか」


 ここからが主題である。最も訴えかけたいことを声を大にして言った。


「そもそも、男でも女でも健康体でも、稼働立ち会いなんてキツくて面倒くさくて休みたいんですからね! 妊婦さんがやったら駄目!」

「確かに!!」


 翌日、Hさんに会った時に聞いたら、ゴールデンウィーク中の仕事は無くなったそうだ。よかったよかった。

 こんなことがあったんですよ、と雑談代わりに話したら、彼女は申し訳無さそうに眉を寄せた。


「じゃあ私の代わりに淡島さんが茨城行くんですか?」

「行きませんよ。別の人に押し付けときましたから」


 物凄く釈然としない顔をされたが、見ないふりをしてマグカップに入った珈琲を口に入れた。だってホテルが碌なところ空いていなかったのだから仕方ないだろう。私は社畜であるが、保身の生き物なのである。

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