慣れない配置

 最近はスマートフォンが主流になってきたが、それでも社用携帯はガラケーだったりする。電話する分には問題ないが、テンキーでのメールの打ち方なんて忘れてしまった。

 ガラケーは機種によってボタンの担う役割がかなり違う。昔は携帯を買い替える度に、メールを送信したつもりになって保存していたり、あるいは逆をしたりしていたものだ。


 何年か前に、北海道に仕事で行った。四人だったのでレンタカーを借りた。この人数が個人的には一番好きである。これが五人だとギリギリ一台に乗れてしまうので、男性に比べて体躯の小さな私は後部座席の中央に座らされるのである。狭いし足場はないし、良いことがない。


 後部座席でマネージャーから渡されたガイドマップを読み、明日の昼食を考えると言う素敵な任務を与えられた。やっぱり回転寿司かなーとか考える。冬の夕方五時。外は既に暗いので、自ずと読むのに集中してしまう。

 そんな中、急に誰かの携帯電話が鳴った。運転をしていた人が「俺のだ」と呟いて、折り畳み式の携帯を取り出すと、窓に表示されている名前を一瞥してから、後部座席の私へと放り投げた。

 今日の昼に先入りした先輩の名前が表示されている。何かあったのかなー、と思いながらガラケーを開いたまではよかったのだが、いつも自分のガラケーでやっているように、中央の所謂「OK」ボタンを押してしまった。

 私の携帯は、これを押してから暗証番号を入れることになっている。だが、運転している人のは、そこを押すと「着信拒否」になってしまう。

 いけない、と思った時には先輩の電話を着拒していた。


 面倒くさいなーと思いつつ、自分の携帯電話を出す。

 先輩の番号をリダイヤルから呼び出して掛けなおすと、数コールで相手が出た。


「すみません。切っちゃいました」

「ひどーーい!」


 猛抗議されたけど、私のせいなのだろうか。

 まぁ基本的には目上に対してはイエスマンな私なので、丁寧に謝罪のうえで「んで、用件なんスか。とっとと話してください」とお願いする。


「大したことじゃないんだけど、Aさん(運転してる人)に伝えてくれる?」

「はい」

「サーバ落ちちゃった」


 いやそれ、大したことなんじゃないかな?

 まぁ、稼働していないから落ちてもお客さんが困るわけではないが。


「マネージャいますけど、話しますか?」

「うん、お願い〜」


 助手席にいるマネージャーに声をかけて、状況を説明しながら携帯電話を渡す。「はぁ?」みたいな表情で携帯を受け取ったマネージャーは、数秒後に声を上げた。


「あ、しまった。切っちゃった」


 デジャヴだなぁ、と思いつつ、もう一度先輩に電話を掛けなおした。

 先輩は電話口の向こうで何やら不貞腐れていた。

 でも先輩、貴女がこの前やった「インナーロックのサーバルームに全員閉じ込めた」罪に比べれば全然良いと思います。

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