常識的な貸借

 カクヨムコン4が巷では密かな話題である。

 『歯車のエストレ』でエントリーしているので、銃とかネットワークとかお好きな方はどうぞ。


 先日、仕事で横浜方面に行った時の話。

 その日は休日出勤で、朝から鬱々だった。

 昼になって、飯を食いに行こうと言われて外に出たが、土日だとランチをやっている店が極端に少なかった。

 散々探した挙句に、やっとラーメン屋を見つけた。

 まぁこの際食えるならなんでもいいわい、と食券機横のメニューを見て考え込んでいると、一緒に来た人が申し訳なさそうに囁いてきた。


「千円貸してくれませんか」


 財布に万札しかなかったらしい。

 いいですよ、と自分の財布の中を見たら、千円札一枚と五百円玉八枚があった。五百円玉って何となく貯まる。

 五百円玉二枚を貸して、無事に二人ともラーメンに有りつけた。こっちの方はラーメン屋が多くてよろしい。


 帰り道に珈琲でも買おうかとコンビニに寄ると、冬の限定品が並んでいた。

 気になるなー。でも小銭が微妙に足らないから、やっぱりいつものかなー、とか考えてると、お金を貸した人が話しかけてきた。


「奢りますよ」

「え、いいですよ」

「いや、俺としては淡島さんにお金を借りたのが、なんというか、失態で」


 まぁ年下に借りるっていうのは、ある程度の常識を具えた人なら嫌なものなのかもしれない。

 じゃあ、いいか! と高い限定品を、恰も「元からこれを買うつもりでした」みたいに差し出した私は常識に欠けている。


 作業場に戻って、冬限定モカプレミアムを嬉々として飲んでいたら、その人が千円札を持ってやってきた。


「五百円玉二枚じゃなくてすみません」


 いや、別に謝らなくても……。

 というか、私が五百円玉使って、千円札貸せば良かっただけの話である。

 どうも私は常識や気遣いというものが欠けているようだ。

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