金に罪はない
先日、多分数ヶ月ぶりに会社の月例会(月に一度全社員で現状を確認するやつ)に出た。
その会の中で、半年ほど前に全社員対象で募集をかけたミニプレゼンの表彰式があった。
そういや、そんなものあったなー、なんて思いながらメールボックスを開くと、たった一時間目を離していただけなのに結構な量が溜まっていた。
それも 「至急返信下さい」 「確認をお願いします」 「要返信」みたいな内容ばかりである。内心舌打ちをしながら一つ一つ片付ける。ここで片付けないと、今度は電話が来てしまう。社長の話の最中に電話を掛けに行くことは避けたい。なぜなら私の席は社長が話すスペースの目の前。離席するとすごく目立つ。
メールを粛々と片付けながら、たまに視線を上げて話を聞いている振りをする。
社長はどうやら、集まったプレゼンの内容について話しているようだった。「総合的には客層のチェンジが多かった」とか「ソーシャルネットワークを利用する案が目立った」とか、そんな話だ。ふんふん、と相槌を打つ真似をしながら、手元は必死にメールの返信を打っていた。
沢山溜まったメールの中に「そういえば明日の打ち合わせって俺行くんだっけ?」みたいなとんでもない物もあったが、それについては「当然」と短く返す。私の心は三畳間より狭いので、「行かなくてもいいですよ」なんて言わない。旅は道づれ、生贄は一人でも多く。いざとなればお前が盾になれ。
面倒なメールも一つ一つ対応しつつ、無意識に髪を掻く。前にも言ったが、私の身だしなみは最低ラインもいいところなので、髪がボサボサだろうと何も気にしない。
だがそのことを、数分後に後悔することになる。
「えー、プレゼンの内容を見て、管理職で投票を行った結果、一位が決まりました」
背後のスクリーンに見覚えがあるパワポの表紙が映しだされた。
「淡島さんです」
え、私?
きょとんとしている私に、皆の拍手が向けられる。
社長が手招きするので前に出ると、金一封が差し出された。それを受け取る私に向かって、広報担当がスマフォのカメラを向ける。
髪はボサボサ、化粧もボロボロ、着ている服は個性が過ぎる女に向かって、何度も。
物凄く止めて欲しいと思いつつも、金の前で人は無力である。笑顔でそれに応対し、他の社員達にもその封筒を見せびらかす。
というか私は何書いたっけ? ちょっと覚えてない。
確か、徹夜明けに「そういえば今日が締め切りだった」と思い出して、勢いだけで書いた。提出する時にゼリー飲料を啜っていたことぐらいしか覚えてないので、これを受け取ってはいけない気がする。
でもくれるものは貰う。金に罪はない。私にも罪はない。
後日、案の定な出来栄えで広報のページに私の写真が載った。
せめて髪ぐらい結び直せばよかった。というか服ももう少し落ち着いた色にすればよかった。なんだか新鋭作家みたいである。
金一封で酒を飲みに行こうと先輩や上司が煩いので、一人で串かつでも食べに行くことにした。
社畜にも偶にはご褒美が必要である。
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