社畜たるもの

 デスマーチ終了。

 大体にしてデスマーチの原因というのは「見積が甘い」ことによる。「これで行けるだろ、楽勝楽勝」とか思っていると、とんでもない落とし穴やしっぺ返しが来るのである。大体は営業が、「XXでは出来たって聞いたよ」とかいう、噂話のレベルを出ないものを鵜呑みにして「完璧に出来ます」「簡単に対応出来ます」とか言うせいである。

 どう足掻いても出来ないので、それを正直に伝えたところ非難轟々、人格否定気味な罵倒の嵐、苛々しながら説明書を放り投げる人続出。


 営業やマネージャーは苦虫を目と鼻にねじ込まれたような顔をしているが、私は最初からこうなるとわかっていたので、なんとも思わない。営業がこの仕事を取ってきた時にも、散々「これ確認して下さい」とか「これやったほうがいいです」と言ったのだ。聞かなかったのはあちらなので、私は悪くない。


 最近はもう頼まれたこと以上のことをするのは止めた。自分で自分の首を絞めかねない限りは「頼まれませんでしたー」で流してやろうと思っている。いや待てよ。もしかしたらこれが社畜脱出の第一歩だったりしないだろうか。今までの社畜ライフは、きっと私が頼まれた仕事の他にも色々やっていたせいだ。そうに違いない。


 新事実の発見に胸を踊らせながら、私は社用PCを開く。

 とりあえず、全てはこのデスマーチの後片付けをしてからにしよう。誰にも頼まれていないけど、誰かがやらなければいけないので仕方がない。デスマーチ中の断片的な記憶を繋ぎあわせて、稼働報告書を作成する。あくまで、少々のトラブルしか起きなかったように見せかけなければならない。だって正直に書いたら、上の人達に呼び出しを食らって、詰問タイムが始まるからだ。

 「軽微障害が発生しましたが、特に影響はありませんでした」とか嘘を並べていく作業はとても虚しい。社畜を脱出したら、希望と夢に満ち溢れた報告書を作りたいと思う。

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