プログラマではない
レビューを頂き、その中に「非プログラマ」とは何かと問われていたので、ちゃんと書こうと思った次第である。
「非」と付くからには、否定の意味が込められている。要するにプログラマではないということだ。
職業を聞かれてSEだと答えると、高確率でこう返される。
「じゃあスマフォのアプリとか作るの?」
まぁSEの中にはプログラマも含まれるから、間違いではない。だが私はプログラミングというものが出来ないのである。
大抵は仕様書を書く人と作る人は別である。書いた人が作る人に「これでお願い」と仕様書を渡して、それを見た作る人が「じゃあこのぐらいの値段で作りますわい」と見積もりを提示する。
私はこの「書く人」なのだ。だから非プログラマ。
ただ、一応入社してから一ヶ月くらいは社内研修でプログラミングの基礎を教えこまれたから、最低限の仕組みはわかる。どういう書き方をすれば、自分の望んだアプリケーションが出来上がるかも大体わかる。
ある時、「稼働の応援に来てください」と言われた。
応援というのは、本来自分が担当している案件ではないところに、人手を補うために行くことである。色々なパターンがあるが、この時は「稼働立ち会い」として呼ばれた。システムが切り替わってすぐは、ユーザから質問を受けたりすることが多いので、その時だけ人を増やして対応するのである。
基本的に稼働の応援は気が楽だ。だって自分の仕事ではないし、何かトラブルが起きても自分で解決する必要はない。「こんなこと言われましたぁ」とか言っておけばいい。
そんな気持ちで当日現場に向かうと、何やらざわめいていた。
正規のメンバーが端末を前にして溜息みたいなものを連発している。そこにはあるシステムの画面らしいものが表示されていた。「らしい」というのは、それが私が普段見慣れているものと雲泥の差だったからである。画面のレイアウトは滅茶苦茶。ボタンやチェックリストは反応しない。しかも別画面展開の時に落ちる。
「どうしたんですか、これ」
「いや、実は……今回、端末がリプレースされなかったんで、かなり古い端末を使っているんですよ。そこで動かすと、この通りグチャグチャになっちゃって」
「これマズいですよね?」
「はい……」
そう答えた人は遠い目をして黙りこむ。もう色々キャパオーバーのようだ。
私はふと思いついて、そのシステムのソースコードを開いてみた。見ているだけで面倒くさくなるような文字列が並んでいるが、頑張って目を凝らせば意味はわかる。どこで何の処理をしているかさえわかれば、後は簡単だった。
「これif文の処理が変ですね。例外処理もないし。多分ここ直せばいいんじゃないですか? 修正していい?」
「で、でももう稼働してるし」
「どうせ動かないんだからいいでしょ」
端末と椅子を強奪して、コードの修正を開始した。
基本的に追い詰められると勘が冴え渡るタイプである。どのあたりでエラーを起こしているか、目星をつけてどんどんと修正していく。この仕事ぶりを普段から見せていればもう少し会社からの評価も上がる気がするが、身体が持ちそうにないので止めておく。
一時間ほどで修正を終えると、そのソースコードを再コンパイル。少し離れたところで、さっきまで天井を見上げていた人が「あ、動いた……」と呟いたのが聞こえた。
いい仕事したわい、と自己満足しながら煙草を吸いに外に出た。
煙草を吸いながら、開発部へ電話をかけた。
「こういう事情で現地でソースコードの修正を行いました。後でそれを送付させるから、管理お願いします」
そう。直しただけでは駄目なのだ。
開発部がそれを把握していないと、次にそのシステムが改修なり改造なりを行った時に、また動かないものが送られてきてしまう。「修正するのはこのソースコードにしてね」と、こちらから伝えておかなければいけない。
「誰が直したんですか?」
電話の向こうで開発部の人が不機嫌に言う。勝手に直すなということだろう。気持ちはわかるが、仕方ないだろう。病院の業務がストップする瀬戸際だったんだから。
「私が直しましたけど」
「プログラミング経験ありましたっけ?」
「少なくとも業務経験はないですね」
「なのに何故」
「出来そうだったから……?」
明らかに電話の向こうで笑う声が聞こえた。それはそうだ。私が「出来そう」なんて笑止千万だろう。入社時の研修でとんでもないバグったプログラムを提出したのだから。
私はプログラミングが苦手である。修正程度は出来るが、一から何かを作り出すことには長けていない。
というか自分で仕様書を書く度に思うが、これを作らされる人は大変だろうなと思う。自分に当てはめて考えると目眩がする。今後プログラミング業務をする可能性も全くゼロではないが、出来ることなら携わらずに生きていきたい。
追伸:デスマーチ中につき、暫く更新が遅れます。
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