清掃チェック
あれは某夢の国の近くで仕事をしていた時のことである。
急に「ねぇねぇ手伝ってよ」という軽いノリのメールで呼び出されて、初めて訪れる病院で作業を行った。病院の窓から夢の国の城がかすかに見えていたが、それがライトアップされる前から開始した仕事は、ついに城が闇に溶け込むまで終わることはなかった。
終わった後にホテルへ向かい、軽く夕飯(というか夜食に近い)を食べてから部屋に入ったのだが、入った瞬間に私の目にとんでもないものが飛び込んできた。
場所が夢の国の近くであるために、ホテルは値段の割にはまぁまぁ良い内装をしていた。シーズンオフだったことも手伝って、私に割り当てられたのはセミダブルベッドが部屋の中央にドンと置かれたタイプの客室だった。
そのベッドの上に何かが載っていた。
枕に鎮座した黒くて平べったい何か。近づいて目をこらしてみると、それは「毛穴パック(使用済)」だった。
ほう、最近の枕には鼻があるのか。
疲れた脳みそでそんなことを考えながら、気持ち悪いので枕を取り替えてもらうことにした。フロントに電話をすると、数分でスタッフの方が上質な枕を持ってきてくれた。
まぁいい。
私もかつては場末の安ホテルで清掃をしていた身だ。この程度で怒ったりはしない。毛穴パックだって、何かに引っかかっていたのが清掃後に落ちたのだろう。そういうことにしよう。というか眠たいので抗議する気力もない。
上質な枕をベッドに放り投げると、シャワーを浴びるために浴室に入った。ユニットバスの中は綺麗だった。一応確認してみたが、毛穴パックは落ちていなかった。安心してシャワーを浴びて、すっきりして浴室を出たところで、何かを踏んだ。
下を見ると、黒い絨毯に何か白いものが飛び散り、そして私の足が何かで汚れていた。数秒考えこんだ後、私はもう一度フロントに電話をかけた。
「床に携帯灰皿落ちてて、踏んだんですけど」
煙草くさくなった足を宙でふるふるさせながら苦情を入れると、数分後にさっきのスタッフが恐縮した顔でやってきた。
「部屋をお取り替えします」
「そうですね。お願いします」
このままではベッドに入ったら切った毛束が落ちているとかなりかねないので、申し出には素直に従った。一度目は大目に見るが二度目は駄目である。
スタッフに連れて行かれた部屋は、恐らくそのホテルの中でもグレードが高いものであり、寝室とパウダールームが別になっていた。もう後は寝るだけだから、そこまでしていただく必要はないのだが、そんなこと言い出したらめでたく嫌なクレーマーだ。丁重に礼を述べて戻ってもらったあと、キングサイズかクイーンサイズかは知らないが、大きなベッドに寝転がった。良いメーカーのものを使っているのか、身体が沈み込むような感覚と共に眠気が襲ってくる。偶にはこういうのもいいか、と思いつつ眠りについた。
翌朝、熟睡しすぎて寝坊して怒られた。
やはり、私には安い値段の安い部屋が性に合っているようだ。
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