根性バグ検出
あるシステムが新バージョンを出すので、外部検証をして欲しいと頼まれることがある。
簡単に言えば「開発側である程度ソースレベルのテストしたから、操作側のテストをエンジニアがやってくれ」ということである。まぁこの言葉も業種によって様々に定義されるので厳密に言えば意味は違うのだが、このエッセイで厳密などどうでも良い。
大抵はインストーラと検証機と共に、分厚いテスト仕様書が渡される。そこに書いてあることを全部行い、結果を書き込めという指示付きだ。「ボタン押下時にポップアップが起動すること」とか「別画面に遷移する際にアラートが表示される」とか、そんな内容が千以上も記載されている。
私は性格上、決まり事を守るのが苦手である。怠惰でガサツな性格なので、こういうテスト仕様書を見ると眠くなってくる。
だが外部検証は嫌いではない。長ったらしい仕様書をコツコツ片付けながら、合間合間にイレギュラーな操作をしてはバグを検出するのが得意だからである。
そもそも最初に外部検証を依頼された時は新人時代の終わりだった。気の向くままに色々操作したら、システムは落ちるわデータベースはエラーになるわで、開発部で騒ぎになった。依頼してきた担当者は、バグ報告書に並ぶ私の名前を見て「この人開発に来ないかなー」とかぼやいていたらしい。冗談じゃない。
それ以降、何度と無く外部検証を依頼されてはバグ出しに勤しんできた。リリース出来ない程の重障害を探し当てて、一ヶ月ほど製造をストップさせたこともある。
そんなある時、中間報告の会議をするからと呼ばれて会議室に赴いたら、企画部の人が同席していた。
「淡島さんの報告するバグのうち、いくつか再現出来ないものがあるので確認に来ました」
それまで私は知らなかったのだが、バグを報告すると開発部とは別に企画部も再検証を行っていたらしい。そしてそれが修正レベルか否かを判断していたのだが、私の出したものが尽く再現しなかったので、言い方はアレだが「勘違い」の可能性を考慮して同席したそうだ。
と、言われてもなぁ。
まぁ偶に仕様を勘違いしていることはあるが、バグ出しの時は入念なチェックをしてから報告書に記載をする。そうしないと二度手間三度手間だからだ。
「特にこの「画面上のある場所をクリックするとシステムが落ちる」というのが再現出来ませんので、此処で再現してみて下さい」
一休さんみたいな展開になってきた。
では画面の後ろからその「場所」を照らして下さい。とでも言えばいいのだろうか。
検証機の前に座った私は、ワイドモニタ一杯に表示された画面を見つめながら、マウスのカーソルを持っていく。ボタンも入力枠もなく、何の目印もない場所までカーソルが届くと、そこで一度クリックした。
落ちた。
そりゃそうだ。何度も試して、気のせいでないことを確認してから報告したのだから。
振り向くと、企画部の人が唖然としながらも「もう一度」とか言い出した。
何回、屏風から虎を出させるつもりだ。私だって結構神経使うから辛いんだぞ、と思いながらもう一度同じことをしてみせた。
やっぱり画面は落ちたし、企画部の人の肩も落ちた。
「どうやったらこんなの見つけられるんですか。何かに呪われてるんですか」
「別に普通に操作してるだけですよ」
大嘘である。
開発部に重障害の報告を叩きつけて驚かせるのが、私のささやかな楽しみなのだ。必死になって画面を隅から隅まで舐めるように操作し倒して、報告書をウキウキと開発に提出するのを、年に一度の娯楽しているだけだ。
「また淡島さんが変なの見つけてきた」と言われたいために、肩が痛くなるほどクリックするし、目薬を使い切る勢いで画面や操作手順書とにらめっこをする。検証を依頼されたからには、一定の成果は出さないといけないだろう。重障害が出ないとこちらも張り合いがないと言うものである。
そんなことを飲みの席で言ったら「性格悪い」と言われた。解せない。
私はお仕事熱心なだけである。
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