ぱそこんにがて
パソコンというかIT機器は苦手なのかもしれないな、と思った話。
何年か前にやっていた病院で規模の大きなリリース作業が発生した。といってもリスクが少ないので、勉強の一環として入社五年目くらいの男性がプロマネとして入り、私は前回の稼働メンバなのでオブサーバ的役割としてアサインされた。
「俺、色々学びたいんでお願いします」とか言われたが、正直この仕事にそこまで力を注ぐ余力はなかった。基本的に数個くらいのJOBは掛け持ちしているので、どうしても力の入れ方が偏る。
最初の打ち合わせに同行したあとはメールのみでやり取りを行い、次に現地で会ったのは稼働の二日前だった。会うなり「何で来てくれないんですかー」と絡まれつつ、それをハイハイとあしらいながら仕事をした。
昼になって、食事に行こうと言われたので、そのプロマネと一緒に駅前のステーキハウスに行った。
「淡島さんがここやってたのって、何年目ですか?」
「二年目」
「マジっすか、やべえっすね」
みたいな中身のない会話をしていると、やがてプロマネは新しいスマフォを取り出して、何やらチラチラと画面を見せ始めた。
面倒くさいな、と思いながらも話を促してみると、満面の笑みになってその画面をこちらに向けた。
それは所謂、お財布ケータイ機能だった。
レジとかでピッとやれば支払いが出来るやつである。
「これ使ってから、俺財布とか殆ど持ち歩かないんですよ。淡島さんは使ってますか?」
「いや、私はそういうのはちょっと」
そう答えると、プロマネはどこか見下したような笑みを向けてきた。
「遅れてますねー!」
放っておいてくれ。
「いやー、マジで。コンビニとかで珈琲買って、小銭ジャラジャラさせてる人とか、まじダサいと思うんですよねー」
「私は(お前と違い)出張多いから、現金は持ち歩きますよ」
「じゃあもしかして駅とかでわざわざ千円、二千円を財布から出してチャージするんですかぁ?」
完全に馬鹿にされているが、別にムカつきはしない。
というか、心底どうでもいい。
そんなことでカッコつける暇があったら、いい加減ググらずにデータベースをコマンド操作しろと言いたい。
「あ、もしかして淡島さん、あれですか?流行っつーか、パソコンとか苦手なタイプですかぁ?」
「は?」
「こういうのってー、ネットとかで流行に敏感じゃないとー」
彼が何を言っているかさっぱりわからない。
もしかしてこれがITに疎いということなのかな、と思いつつ私は運ばれてきたステーキにフォークを刺した。その後も彼はITに疎い私のためにご高説を振るってくれた。
食事を済ませ、得意気に支払いを済ませたプロマネを連れて作業場に戻ると、データベースが立ち上がらないとかで少々騒ぎになっていた。
プロマネはそれを見て困ったように私を見た。
「淡島さん、これわかります?」
「知らなーい。私、パソコン苦手なので」
某失敗しない女医みたいなテンションで言いながらサーバのコンソールに向かう。
まぁ、パソコンが苦手だろうとITに疎くても仕事がちゃんと出来ればいいのだ。そうすれば、お財布ケータイは使いこなせなくても、コンビニで飯は買えるのだから。
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