酒は飲めどもフォーエバー

 出張中の楽しみと言えば呑みである。

 まぁ別に出張しなくても普段から飲んでいるのだが、やはり開放感というものが違う。地元の美味しい酒とツマミで酔っ払って、ホテルでぐだりと寝たとして、翌朝にベッドを整える必要も洗濯機を回す必要もないというのは結構良い。


 酒が強いかと問われれば、多分強い部類に入る。

 某所に仕事で二週間ほど滞在していた時のこと、稼働も無事に出来、立会いも大きな問題なく終わった。

 プロマネは珍しく機嫌よく、まだ六時になったばかりの時計を見ながら「今日は打ち上げだな」と言っていた。その日は土曜日で、我々は翌日には各々好きな時間に帰ることになっていた。


 一度荷物をホテルに置いてから繁華街に繰り出した我々は、地元の海産物が美味しくいただける店に入った。それが夜七時のことである。

 最初はいつものようにビールとサワーを皆飲んでいたのだが、私の直属の先輩が日本酒に手を出したあたりで雲行きが怪しくなった。

 次々に運ばれてくる日本酒。回る酒。倒れる徳利。

 全員が全員、一定以上酒は飲めるタイプだから、どんどんと盃を重ねていく。


 あっという間に十二時を超えて、店の閉店に伴い外に出ると、新人二人がそこでギブアップした。プロマネは「よし二軒目」と当然のように、まだやっている店へ残った連中を連れて乗り込む。

 そこは燻製チーズの美味しい店だった。それは覚えている。

 食べた記憶が一切ないのは、皆で酒ばかり煽っていたからだ。

 この時点で皆割りと酔っていたが、仕事の話は一切持ち出さないあたり、まだ冷静だったと言える。どこの業界でも似たようなものだと思うが、公共の場で仕事の話はしないのが正解である。誰がいつ聞いているかわかったものではない。


 午前三時。そこの店も閉店したので、真夜中の繁華街に再び押し出された。

 此処で一人が「仕事より飲みのほうが辛い」と言って離脱した。私も離脱したかったが、先輩が完全に酔っ払っていて危なっかしくて仕方ないので、監視役として残った。

 三軒目は全国チェーンの居酒屋で、別に何も美味しくなかった。でも全員「何か腹に入れておかないとやばい」というのは悟っていたのか、サラダを頼んでちまちまと摘んでいた。

 途中で先輩が私を見て、不思議そうな顔をした。


「なんで酔ってないの? むかつく」


 いや、ムカつかれても。二人揃ってベロンベロンじゃ話にならないじゃないですか。

 絡み酒に付き合いながら、適当に作られた酒を煽っていると、プロマネが煙草を吸いながら言った。


「延泊してもいいよ。予算余ってるし」


 それを聞いて俄然元気になる先輩。元気にならないで下さい。寝て下さい。

 私の飲みかけのハイボールを呑まないで下さい。貴方のはそのぬるいウーロン茶です。


 結局、ホテルに戻ったのは、朝日もチラ見している午前五時だった。ふらふらの先輩を部屋に叩き込んでから、私は自分の部屋に戻って、シャワーを浴びて化粧を落としてベッドに倒れこんだ。


 だが、私は翌日の十時の飛行機を予約済みだったので、三時間後には目を覚まして、重い関節に鞭打ってチェックアウトをした。その際に先輩を見かけた気がするが、荷物は持っていなかったので延泊申請をしていたのだろう。

 後日、本社で皆に会った時に判明したのだが、私以外は延泊をしていた。


 それ以降、十時間飲みが発生したことはない。

 どうも当時のメンバはあの飲みがトラウマになったらしい。相当酷い二日酔いに見舞われたのだろう。私も二度とやりたくない。

 酒を飲んで辛いことを発散するつもりが、別の辛いことを引き起こしてしまった例である。酒は飲めども呑まれるな。夜通し飲むのは絶対に止めたほうが良い。

 以下、その時の私の飲んだ量を記載して締める。


ビール:中ジョッキ二杯

サワー:中ジョッキ六杯

日本酒:五合

焼酎:ロック五杯

ハイボール:中ジョッキ二杯

ウイスキー:ロック一杯

二日酔い防止のホットコーヒー:一缶


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