【閑話】無職だとしても
先日のことである。某巨大総合施設の休憩所でぼんやりと缶珈琲を飲んでいたら、不意に横から話しかけられた。振り向くと、キャリアウーマンな感じの女性がにこやかに座っていた。
「私、この近くの会社の採用担当の者なんですけど」
「はぁ……?」
「失礼ですが、今お仕事には就いていますか?」
どうしよう。無職だと見られているのだろうか。
そりゃ死にものぐるいでもぎ取った夏休み、要するにド平日の午後一時に、特に買い物するわけでもなく、携帯を見ているでもなく、無料休憩所で珈琲飲んでる女は職に就いていないように見えるのかもしれないが、れっきとした会社員である。
困惑しながら女性の抱えているトートバックを一瞥すると、見覚えのあるクリアファイルが覗いていた。よくCMなどもやっている保険会社のロゴ付きである。
なるほど、理解した。保険レディのお誘いだ。
要するに職を斡旋するから、この保険にも入ってくれ、というアレだ。
そういうの一切向いていないし、エンジニアだから無職じゃないんですぅ。と説明してお引き取り願った。エンジニアだと言ったら「正社員ですか?」とも聞かれたけど、仮にバイトだったとしても保険レディにはならない。性格的に向いていない。
女性が去ってから数分後、今度はスーツをビシリと着こなした男性に声を掛けられた。
「僕、この近くの会社で人事を担当している者ですが」
なんかさっき聞いたようなフレーズだ。
「失礼ですが、現在何かのご職業には就いていますか?」
それさっきも聞かれた。さっきも同じこと聞かれた。
どういうことだろう。私はそんなに無職感出ているのだろうか。社畜なのに。
しかも先程のは保険レディだったから、まだわからなくもない。今度の男性が見せた名刺には、ある有名な不動産系の社名が入っている。もう意味がわからない。私が無職だったとして、ビル屋が私に何の用事だ。管理人でもやれってか。
多分、ぼんやりしているから引っ掛けやすそうに見えるんだろうなーと思いながらも、先程と同じようにお引き取り願った。その直後に、一応持ち歩いている会社の携帯が鳴った。
「淡島さん、XX病院でトラブってるんだけど今から行ける?」
「夏休みなんで駄目です」
「あ、夏休みとか取るんだ」
取るに決まっているだろう。これは社員の権利だ。
社畜は今後、外出する時は無職感のない服を着ることに決めた。
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