謎は多分解けた
社畜エッセイに精を出す傍ら、魔法在りきの推理小説『anithing+』を書いている。燃えた木が消えたり、牛が飛んだり、怪盗が出たり、そんな内容である。主人公は双子の兄妹で、毎回何かしら食べている。最近は食べている描写に力を注ぎすぎて、大したことない内容が三割増しぐらいの長さになっている。
唐突に宣伝なんかしやがって、どういうつもりだと思った方におかれましては申し訳ない。まぁ読むも読まないも人の勝手だから、このぐらいは許して欲しい。
障害の原因を探すのは推理小説に似ている。
システムエラーは常に「ここの入力値が悪いです」とか「さっき押したボタンが原因です」とか教えてくれない。意味不明な数字や英語の羅列だけ残して、ブツリと落ちることも多々だ。そういう時にはどうするか。
社内で検証をしている時はまだいい。開発にメールなり電話なりして「あの野郎、この動作したら落ちましたぜ、ヘヘッ」とか言い残して、タバコでも吸いにいけばどうにかなる。何しろ動かしているのも管理しているのも自分だ。それに障害が起きたところで業務に影響が出るわけではない。
問題は現地である。「何もしてないのに急に動かなくなった!」と言われた日には最悪だ。嘘つけ、何かしただろう、という言葉を喉元に押さえ込むところから仕事がスタートする。
ある病院の稼働で、三日目を迎えた朝。急に看護師に連れて行かれた先では、完璧にフリーズしている弊社のシステムがあった。傍では医師がうんざりした顔をしている。これはいけない。下手に時間を食えば、怒られる。
フリーズしているので、強制的にシステムを落とすしかないが、その前に最低限の情報は仕入れておきたい。いかにも調査しています感を出しながら、医師に尋ねる。
「先生、こちらはいつからこのような状況に?」
「印刷しようとしたらこうなったんだよ。困るね、こんなことじゃ!」
申し訳ありません、と頭を下げながらも脳をフル回転させる。
通常、このシステムは印刷でフリーズしたりしない。ネットワークへ一度プリンタを探しに行くが、それが失敗した時の処理はちゃんと実装されている。
「何かメッセージなどは出ませんでしたか」
「出てないよ!」
もう完全にお怒りモードである。そりゃそうだ。
例えるなら会社に行こうとしたら電車が止まっていて、原因を駅員が教えてくれないようなものである。イライラするのも当然と言えるだろう。
とにかくログを取得して、それをネットワーク上のフォルダに格納……しようとして、はたと気付く。ネットワークには何の異常もないじゃないか。それにシステムを途中まで動かしていたということは、データベースへのアクセスも問題ない。
真横にあるプリンタは電源が付いているが、印刷をしている様子はない。端末から印刷ジョブ(何が印刷中とかわかるダイアログのこと)を覗いてみると、そこには恐らく医師が印刷したかったらしいものが残っている。
あれ? じゃあ端末側とネットワークには問題がないということだ。
となると、残る可能性はあと一つ。
「先生、度々スミマセンが、印刷しようとしたのは……」
「その患者だよ。さっさとしてくれないかな!」
データが悪い。
稼働して三日目。圧倒的に古いデータが多い中で、印刷しようとしていたのはそのうちの一つだった。勿論切替日に古いデータベースから全て移行はしている。だが、旧システムと新システムは微妙に構造が違うところがあって、それが偶にとんでもない問題を引き起こすことがある。
そこだ。絶対にそこだ。
設計書を見て「面倒くさい処理してんな」と感想を抱いた箇所がある。もしそれが原因だとすれば、このフリーズにも説明がつく。取得したい値が不正だから戻り値が例外になってしまうのだ。
五分だけ待って下さい、と頭を下げて、私は逃げるようにその場を後にした。データベースを操作するためにサーバ室に飛び込むと、急いで該当の箇所を見つけ出して、データの修正を行った。
再び急いで医師の元に戻って、もう一度印刷をするようにお願いすると、今度は正常に動作した。
様々な条件や状況から考えて、謎を解き明かす。障害の原因追求は推理の如しである。
普段からこれが発揮出来れば問題ないのだが、切羽詰まった時でないと無理なので、基本的に平素の私は役立たずである。こうして華麗に謎を解くときも周囲に誰もいないので、アピールのしようがない。まぁ目立ちたくもないので、これで良しとする。
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