あるSEの備忘録

何してるんですか？

　基本はコミュ力を駆使して仕事をしている。

　違う会社の人とも、同じ場所で長いこと仕事をしていたり、何度か違う案件で会っていたりすると仲良くなる。

　北陸地方でやった長期案件で、別の会社の人達と仲良くなった。向こうのほうがこちらの数倍気さくだっただけという説もあるが、取り敢えず置いておく。

　作業範囲が被っているのと、使う端末が同じなので必然的に会話が多くなるし、病院の中を一緒に移動する頻度も高い。なので事務的な会話にも飽きたところで「桜前線どこっすかね」みたいな雑談などが生まれる。

　ある日の仕事終わりにプロマネが「飲み行こう」と言い出した。稼働も上手くいったし、一先ず打ち上げだ、ということだろう。まぁ酒さえあれば何でもいいので、諸手を挙げて賛成した。

　因みにメンバーは総勢八名。そのうち私だけが東京本社の人間だったので「何かー、美味しいもの食べさせてくださいよ〜」と馬鹿丸出しな感じで頼み込んで、地元の魚を美味しくいただけるところに入った。

　海老やカニを食って日本酒を飲んで上機嫌になっていると、奥の座敷から出てきた人たちと目が会った。つい数時間前まで桜前線の話をしていた人たちだった。こちらのマネージャーも気付いて会釈をする。

「あれ、XX社さんお帰りですか」

「そちらは盛り上がってますね。うちの伝票置いていっていいですか」

「そこはYY社さんがうちの分も払ってクールに去る流れでしょ」

　と冗談まじりの会話を交わして、その日はそれで終わった。

　ちゃんと飲み代は皆で割り勘した。

　翌日、仕事をしに病院に行くと、「昨日はどうも」とXX社の女性に話しかけられた。

「偶然でしたねー。私達、そちらより早く来て飲んでたんですよ。それで暇だったから、席からそっち観察してたんです」

　何してるんですか？

「淡島さん、女性一人じゃないですか。気になっちゃって。仕草が可愛いとか、わー煙草吸ってる〜とか、盛り上がっちゃいました」

　何してるんですか？

「それで皆で「淡島さんの仕草を真似してみよう」って手を組んでみたり、姿勢を変えたりして頑張ったんですけど、全然駄目で〜」

　マジで何してるんですか？

　というかそれ、そちらの五十代のプロマネもやったんですか？

　お茶目ーーー！

「というか私を観察して楽しいですか？」

「何でしょうね。今まで見たことないタイプなので」

　珍獣扱いを受けるのは、別に今に始まったことではないので泣かない。