議事録は新人が書くことが多い
何年前か忘れたが、喫煙室で煙草を吸いつつ「今日の帰りはどの居酒屋で一杯引っ掛けようか」と考え込んでいたら、よく一緒に仕事をする人が苦い顔をしてやってきた。
私の向かい側で煙草を勢い良く吸いだしたその人は、何度か溜息をついた後に私に気がついた。
「最近、困ってることがあるんだよ。来年の正月稼働の仕事なんだけどね」
「困ったことですか。珍しいですね。サーバ関連?」
「そういうのじゃないんだよ。打ち合わせの回数が多いんだけど、議事録書く奴がいないんだよ」
そんなことで悩む人は初めて見た。
詳しいことは書かないが、メンバーの組み合わせが微妙で、議事録を頼める人がいないらしい。例えるなら、畑違いの人と上司を同伴しているようなものだった。確かにそれは困るだろうな、と思っていると、その人は思いついたように口を開いた。
「あ、そうだ。淡島さん暇?」
「暇ですよ」
「議事録書きに来ない? 広島まで」
「いいですよ」
そんな訳でアサインが決定した。気軽に引き受ける私も私だが、軽いノリで頼んでくる向こうも向こうである。多分、誰が来ようと払う旅費は一緒だから、せめて人件費を安くしたかったのだろう。
二日後、議事録を書くために同伴した私が見たのは、会議室に置かれたスクリーンと、そこに投影されたシステムの画面だった。
「じゃあ淡島さん、システムのデモよろしく」
「議事録書くんじゃなかったんですか?」
「議事録もよろしく」
なんで騙すんだ。大人って汚い。
デモンストレーションしながら議事録なんか書けないので、会議の後に記憶力をフル回転する羽目になった。
結局その後、議事録要員ではなく普通にエンジニアとしての仕事ばかり振られるようになったので、あまり大人を信用しないことに決めた。美味しい牡蠣なんかじゃ一回ぐらいしか誤魔化せないんですからね、とその人にも忠告しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます