文月の終わる頃

 つい先日のことである。滅多に掛かってこない人から電話が来た。

 何だろうと思って取ってみたら、仕事の話だった。仕事の話なら大歓迎だ。金も払わないのに「この病院のシステムって32bitだっけ〜?」とか聞いてくる電話は嫌いである。


「去年一緒にやった仕事あるでしょ? あそこに一つシステム追加することになったんだ。導入しに来ない?」


 場所は兵庫。悪くない。

 東京にも飽きてきたところである。珠には関東から外に出たい。

 話を聞いてみると、あまり工数もかからないし、極めて簡単な雰囲気が漂う内容だった。


 しかし、美味しい話には裏がある。


「それなら事前準備に三人日、あとは現地導入で出来ますけど、いつやるんですか?」

「七月中! いけるよね?」


 ……本日は七月十日です。

 私の感覚が正常であれば、もう上旬が終わります。


 でもどうしよう。兵庫行きたい。ちょっとリフレッシュしたい。

 あと地方案件は取れる時に取っておかないと、後に繋がりにくい。関西から指名がかかるということは、関東で仕事をする身としては結構重要なのである。


 内容も悪くないしなぁ。この人なら特に揉めそうにもないし、ちょっとキツいけど数日残業で押しこめば、他の案件にも響かない。関東の仕事なら断るけど、本当に切実に地方の仕事も欲しい。


「……いいですよ」

「何、今の間」

「ゲップしてた」


 これが吉と出るか、凶と出るかはわからない。

 きちんと書面を交わしたり、決まり事に則って仕事をしている人から見れば「だからお前は社畜なんだ」とか「これだからジャパニーズは」と溜息をつきたくなることだろう。

 しかし、自分の裁量や互いの舌先三寸で行う取引というのも面白いものである。

 因みに今回の電話相手は、以前に書いた、出張から帰る日に「明日、別の病院に行こう」と言ってきた猛者である。今回もそうならないことを祈る。

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