箱の中身はなんじゃろな
最近、家で使っているパソコンが煩い。多分、ファンの動きが悪いんだろうなと思うが、分解して掃除するのは面倒なので放置している。
前の会社を辞めた時に出た、なけなしの退職金を全て使って作った自作PCであるが、何でそんなことをしたのかは思い出せない。使用OSはOpenSUSEである。これも何でそんなものにしたのかわからない。多分、前の会社を辞めて今の会社に移るまでの無職期間が暇だったんだろう。
だがパソコンを組み立てた経験というのは仕事で存外役に立つから侮れない。サーバのトラブルや、パソコンのグラフィックボードを入れ替えたりする時に、若干であれど中身を把握していれば、安心して触ることが出来る。
誰しも、知らないものを触るのは怖い。
ある病院で、保守資料には載っていない謎の装置を発見した。それは一見するとUSBメモリのような大きさで、サーバの後ろにひっそりと突き刺さっていた。埃が積もっていて、最近つけられたものでないことは歴然だった。
誰かがデータを抜こうとしてUSBを差したのだろうか? そしてそのまま忘れてしまった?
もしそうであれば、クレームものだ。情報漏洩の危険ありとして、おえらいさんが雁首並べて頭を下げるレベルである。
「これなんですかね?」
「抜いちゃう?」
何しろサーバ自体が古すぎるせいもあり、このUSBメモリみたいなものがどこでどうやって動いているかもわからない。一応刺さっているサーバにコンソールを繋いで確認したが、メモリ領域は検出出来なかった。
抜こうかどうしようか、皆で悩みながらその謎の物体を見つめる。誰も「じゃあ抜きます」と言わないのは責任を被るのが怖いからだ。
古いサーバというのは、予期しない動作を起こすことがある。USBメモリを差しただけでサーバが落ちてしまった、なんて話は珍しくもないし、逆も然りだ。
皆で「見なかったことにしようか」と話していると、唐突にそのメモリが光った。小さな緑色の光がチカチカと点滅して、再び元の状態になる。
すると続けて、別のサーバが動く音がして、私達には耳慣れた独特の処理音へ変わった。
わかった。
これ、このサーバと別のサーバを繋いでいる、データ送信機だ。
昔は今ほどネットワークに汎用性がなくて、独自の通信方法を使っていたところがあったと言う。その一つがこの病院だったのだ。
引っこ抜かなくてよかった。
そんなことをしたらサーバ間でやり取りしている重要なデータが全部ロストしてしまうところだった。
全員で胸を撫で下ろしながら、一歩ずつ静かにデータ送信機から距離を取る。正体が分かった今、恐れるべきは事故でそれが落ちてしまうことである。むしろよく十年間もサーバの後ろにしがみついていられたものだ。
そう感心しながら、皆でそのサーバから離れた。
知らないものは怖い。概要がわかっていたとしても、仕組みがわからなければ恐怖でしかない。
もしシステム関連で「古いサーバだから確認が遅れます」といったことを言われたとしても、怒らないで受け止めて欲しい。それはきっと、何が入っているかわからない箱の中に素手を入れるようなものなのである。
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