電話の作法
社会人になってから随分経つが、会社の外線の取り方がわからない。いや、内線もちょっとわからない。
あぁいうのは、大抵新人の頃に叩き込まれるものだと思う。どこの会社にかけたって、余程の大企業でない限りは、初々しい声の若者が取り次いでくれる。
新卒で入った会社も当然そのような取り決めがあったが、私は新人研修が終わってすぐに、出張まみれのところに配属されてしまった。そのために会社の電話の扱いがわからなかった。まぁ「ハウツー社会人」みたいな冊子には書いてあったが、そんなもの読んだだけで理解出来るくらいなら、良い学校に入って、良い大学に行けたと思う。実践が伴わないと覚えられない性質なのだ。
その会社を「部長の馬鹿ー! 大嫌いー! あと床が汚いからやだー!」みたいな感じで辞めたあと、今の会社に入ったが、中途には電話番が回ってこない。
今も爽やかボーイが電話を取っては「え、あの、え、確認します」とかやってるのを、微笑ましく見ているだけである。私だったらまず、受話器を取って何かしらのボタンを押すところで躓く。なんかいつも彼はボタンを押してるが、あれは何だろう。押す度にユニセフに一円が募金されるのだろうか。
電話はあまり好きではない。掛けられるのも掛けるのも苦手だ。
繋がるまではいいのだが、いざ繋がると結構妙な言葉遣いをしてしまう。コミュニケーション力が変な方向に振り切っているので、顔が見えない状態での交流が不得手なのかもしれない。そもそも私は人付き合いが良い方でもない。
しかし社会人になったら電話はしなければいけない(筈だ。ごく稀に不要なところもあるかもしれないが)。私が初めて掛けた外への電話は、「ソフトハウスに携帯で電話を掛けて、仕様の確認と修正依頼を行う」だった。
普通、もうちょっと段階踏んでからやるんじゃないだろうか、そういう電話は。入社半年足らずにさせることじゃない。凄く無茶苦茶なことを電話口で言った記憶がある。敬語によく似た言語が舌先で踊り狂っていた。あの時の電話の相手とは今もお世話になっているが、当時のことを思い出すと赤面の至りである。
今は慣れてしまったので全然問題ない。なんなら仕様の話をしながら「そういや今度の天皇賞はどの馬に賭けるんですかー?」なんて会話を挟むくらいの余裕はある。慣れというものは恐ろしい。
だが、こういう電話も全て社用携帯で行っているから、結局会社の外線の使い方がわからない。いつか必要になったら覚えようと思いつつ、今日も社用携帯を開く。
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