ロールロールプレイング

 仕事の内容はいつも同じではないが、パターンは決まっている。多いのは「古い端末を新しい端末に入れ替えて、システムも更新する」案件である。


 今日もそんな仕事のために遠方へ赴いた(都心から電車で三時間、最後の駅では電車のドアが手動だった)。

 このような作業の時に常につきまとうのは、山積みのダンボールと剥き出しの配線である。


 引越しをしたことがある人は、荷物だけ運び込んで中身を出している最中を想像してほしい。個人の引越しなら一時間もあればそんな状況に片を付けられるが、システム更新だと10時間くらいそのままである。


 いつになったら綺麗になるかも不明瞭な中で、床に膝をついて端末を組み立てる。最小限の配線だけ行い、初期設定を済ませたら再び分解し、然るべき場所に持っていくために壁際に並べていく。


 この作業は実は嫌いではない。一人で黙々と出来るし、ちょっとした非日常感が好きだ。床に直置きした端末を弄り、ダンボールに囲まれてるなんて、何か楽しい。理解されなくても寂しくない。

 だから遠くに来るのは面倒だったが、作業自体は苦痛ではないのだ。


 駅についた私は、先日から現場に入っている人に連絡を取ろうとして携帯を開いた。途端に親指の付け根に伝わる振動。掛けようとしていた相手からのメールだった。


『端末が運び込まれず、キーボードだけ溜まっていきます。着いたら連絡下さい』


 どうしよう。物凄く帰りたい。嫌な予感しかしない。

 キーボードしかない場所に行っても私は無力だ。精々「この音は茶軸で、こっちは赤軸ですねぇ」と利きキーボードすることしか出来ない。あるのか、そんなジャンル。


 病院に入ると、果たしてそこには大量のキーボードだけがあった。

 端末は? マウスは? モニタは?

 困惑する私の肩を、先程のメールの送り主が軽快に叩いた。


「実は、配達業者が間違えてバラバラな場所に置いちゃったみたいでさ。集めに行こうよ、四十台」


 RPGによくある配達ミスイベントだ。規模は違うし、私は勇者や遊撃士ではないが、この展開は知っている。探しに行った先々で、たらい回しにされるやつだ。


 「帰りてぇ」と本音を零した私に、周りは聞く耳を持ってくれなかった。

 そして、予想通りたらい回しをされた。

 私が好きな、端末をひたすらセットアップする作業は別の人に奪われてしまい、ただ端末を探し回っては台車に載せるマシンと化した。こんな作業は嫌だ。性にあわない。


 悲しむ私に、マネージャーが話しかける。その手には飲み物が入った袋があった。


「好きなの選んでいいよ」

「本当ですか!」


 単純な脳みその持ち主なので、そんなことで機嫌を直してビニール袋を覗き込む。

 だがそこにあったのは、全部コーラだった。

 何が好きなのを選べだ。「Yes」しか選べないRPGか。リンダキューブアゲインか。

 余計に悲しくなりながら手に取ったコーラは、蓋を開けた途端に炭酸が吹き出した。白い服にコーラが掛かったが、もうどうでもいい。

 ペットボトルを傾けて中の液体を飲みながら、私はあと二四台の端末がどこにあるか考える。全部爆発すればいいのになぁ、と不穏なことを思いながら。

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