結婚式参列・前

 同い歳の親戚がいる。生まれた時からの付き合いで、まぁ互いに特化しているものが違うから、適度に距離は取りつつも友好的だ。

 そんな彼女が結婚式を挙げることになった。何も無い日だったので、ダブルサムアップでオッケーした。まぁ出ないと不自然だというのもあるが。


 挙式の一週間前が、ある案件の稼働日だった。つまりそれを乗り切れば何も問題なく参列できるのである。何かあったとして、日曜日の挙式くらい行けるだろう。

 そんな気持ちでいたし、兄弟ならばとにかく親戚だ。わざわざ周りに言うことでもないと、言わずにいた。

 悲劇はそれから数ヵ月後、稼働の一週間前に起きた。


「稼働が一週間伸びたから」


 吸っていた煙草が気管ではない場所に入った。一週間伸びたら、結婚式に被るではないか。

 例によって、私以外にそのシステム構築が出来る人間がいない。

 兄弟の結婚式なら皆も認めてくれそうだが、親戚くらいでは正当に休ませて貰えそうにない。


「切り替えは、土曜日ですよね?」

「そうだよ。日曜日は連携テストかな」


 行けるか?

 普段は「白菜にゆずポン酢かけて食うと美味い」くらいしか考えていない脳みそがフル回転する。

 土曜日の切り替えだけ完璧に済ませ、連携テストの仕様書を用意して人に託す。会社の携帯を握りしめて結婚式に参列する。そして終わり次第戻る。


 行けそうな気がしてきた。

 二次会には出ないから、披露宴が終わればすぐに抜け出せる。幸いにして親戚付き合いがあるから、多少の非礼は前もって詫びておけばいい。


 火をつけたばかりの煙草が半分になった頃に結論を出した私は「一週間ずれると、競馬見に行けないなー」とか呑気に言ってる人におもむろに切り出した。


「切り替え後の日曜日休んでいいですか?」

「は? なんで?」

「親戚の結婚式なんです」

「え、被ってるの? そういうのって事前に避けるものじゃない?」


 わかるか!

 そっちの稼働日がズレたのが原因だ。そんなことまで考慮してたら、結婚式どころか迂闊に友達と遊ぶことも出来ない。


 胸中の計画を話すと、その人は最初は「ふーん」みたいな顔で聞いていたが、ふと思い出したように尋ねてきた。


「待って。何処で挙げるの?」

「六本木」

「この仕事、京都だよ?」

「わかってますよ」


 何もかも承知の上で、私は危険な賭けに出ようとしている。そこまでして結婚式に出たいのか、それともスリルに重きを置いたのか。もはや自分でもよくわからない。


 そして運命の日はやってきた。


 後半へ続く(初の試み)

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