タイトル未定

 まだ社会人三年目ぐらいの頃、顧客の要望で新しいシステムを作ったことがある。

 今ならもう少し上手くできる気がするが、当時の年齢と経験値を考えたら、まぁよく出来た方だろう。

 欠点は得意の口八丁で誤魔化し、長所だけ述べ、あとは小技に小技を重ねたら、大層気に入られた。


 そして製品化しようと提案された。


 製品化? え、これ只の「この病院に特化して作成したアプリ」ですよ?

 それ他の病院にも売るの?


 疑問符が手と手を取り合ってマイムマイムしている私に構わず、営業や企画はノリノリだった。待って。置いて行かないで。

 経済学もプログラミングも一切駄目な私でも、世の中の理屈ぐらいはわかる。製品にするには需要を伴わないといけないのだ。供給ばっかりあっても意味がない。


 これ売れないと思うけど。そんな言葉をオブラートに包んで出したら、「でも汎用性があるって淡島さん言ってたじゃない」と返された。確かに言ったが、それは工数を増やしたくなかっただけだ。しかし今更何も言えない。自分で自分の首を絞めた。


「じゃあ製品化するにあたり、名前を考えないと。何か考えてきてくれます?」


 笑顔の相手に私は苦笑いを零した。

 何が名前だ。私に名づけのセンスがあると思っているのか。実家の犬の名前を考える時だって家族に全否定される案しか出せなかったんだぞ。


 そうは言っても、言われたからには一応考える。

 何をするのかわかりやすく、それでいて短い名前。間違っても「憂鬱な日常業務のヒトコマを解消する一つの提案」なんて名前をつけちゃいけない。

 英語の方がいいだろう。日本語ではちょっと画面のイメージに合わないし。あと綴りも単純というか、覚えやすいもののほうがいい。売りだすのだからそのぐらいの工夫は必要だろう。

 一週間ほど悩んで、漸く脳みその奥から絞り出した名前を企画に伝えた。


 失笑と共に却下された。


 わかってた。わかってたよ。

 自分だって「なんだこの、倒産した下着メーカーみたいな名前」って思ってたよ。

 でもいざ却下されると、少し傷つく。ほんの少しだけど。


 結局そのアプリは別の似た製品のオプションとして組み込まれたので、製品名をつける必要は無くなった。そして何度かの転換の末、姿を消した。短い命だった。


 どうやら私には「タイトル」をつける才能がないようだ。このエッセイのタイトルだって、ご覧の通りである。サブタイトルも然りだ。こればかりは向き不向きがあるので仕方ない、と日々自分を慰めながらサブタイトルを捻り出している。


 そんな無才能な私が最近書いている、「歯車のエストレ」。タイトルが気になったという奇特な方は読んでみて欲しい。

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