旅は道連れ、私は一人

 社員旅行に行った。行き先は熱海。

 一泊二日の緩い旅行で、それなりに楽しんだ。知人に「会社の飲み会とか旅行とかよく行くよね。絶対行きたくない」と言われたことがあるが、だからどうした。弊社の楽しそうな行事が羨ましいのか。

 「普通は行かないよ」とも言われたが、普通と私に何の関係があるんだろうか。


 熱海でサボテンとかと戯れ、その日に泊まるホテルへと向かった。カピバラの可愛さとかに思いを馳せつつ、チェックイン。割り当てられた部屋に荷物を置くと、まずユニットバスの扉を開いた。


 中はある程度広い。充分な広さではないが、少なくとも膝を常時折り曲げなければシャワーも浴びれぬ環境ではない。ちょっと洗面台がせり出し気味だが、許容範囲内だ。備え付けのアメニティは歯ブラシが二本、シャワーキャップが二つ、レザーが二本。トイレの上の棚に積まれた白いタオルを指の背で撫でると随分と固い感触がした。


 大体理解したあと、ドアを閉める。改めて部屋の中を見る。二人部屋なのでセミダブルベッドが二つ並んでいる。枕元には照明と、内線とメモ帳の乗っかったサイドテーブル。

 同じ部屋の人はまだ違う場所を回っているようなので、荷物は窓際に移動させた。私は壁際でも窓際でも寝れるが、人によっては死活問題だからである。


 財布だけ持って部屋を出た私は、そのままホテルのロビーへ戻った。そこには会社の人が何人かいたが、特に声を掛けることもなく外へ出る。左右を見回し、目的のものを見つけると一直線にそちらに向かった。


 コンビニ。


 ホテルに入ったら、まず設備の確認。そして水の確保が大事である。

 夜中に喉がカラカラになって、ユニットバスの洗面台で水を飲む羽目にはなりたくない。

 部屋にあったタオルはカラリと乾いていたし、ユニットバスは十分広いのにカビの気配はなかった。つまり非常に乾燥しやすいということだ。水の確保は早いに越したことはない。


 コンビニで一リットルのペットボトルと煙草を買って戻ってくると、ロビーで同じ部署の人に呼び止められた。


「淡島さん。今日は社員旅行ですから、出張の手慣れ感出さないで。財布だけ持って一人で出かけないで」


 呆れたように笑っている姿を見て私も少し反省しようとしたが、よく見たらその人の足元に一リットルのお茶のペットボトルが置いてあった。なんだ、お互い様じゃないか。

 結局、人の考えることなんて同じなのである。

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