お約束の展開
まだ大学生の頃に、夜道を歩いていたら職質された。バイト中にプリンが食べたくなっただけなのだが、黒いTシャツに白いジャージ、真冬なのにサンダルでベタベタ歩いていたのが良くなかったらしい。あと深夜二時の繁華街だったし。
その時は仕事で使うビニール袋をジャージのポケットに詰め込んでいたから、警官に色々聞かれた。
外見が金髪ツインテールだったのが職質の要因でなかったと信じたい。こんな奴は東京にごまんといる。若干ピアスが多かったかもしれないが、首から上に十個は、まぁまぁ普通の部類だろう。
誤解の無いように付け加えると、私は陰キャである。間違ってもパリピではない。
そんな素敵な記憶も薄れかけた頃、徹夜中に煙草を吸いに外に出たら職質された。
いや、ここで何をしているか聞かれても、仕事してますとしか。
そりゃ煙草吸いたいからって、財布も携帯も何も持たないで出てきてしまったけど、そんなに怪しいだろうか。
深夜の病院のすぐ裏で、雪の降る中、傘も差さずに煙草を吸う黒スーツの女が、そんなに不審か。どこからどう見ても、辛いお仕事を健気に頑張る女だろう。世も末だと思いながら、腰ベルトに挟み込んだドライバーをさりげなく押して隠した。
眠いから自己弁護も満足に出来なかったが、一緒に働く別の喫煙者が来てくれたことで窮地を免れた。
「すぐそこだし」と軽率に動くのは立派なフラグである。「私なら大丈夫」と思うのも、「何も無いっしょ」と過信するのも、全部フラグだ。
仕事はホラー映画に似てる。
お約束の展開は、よく起こるからこそお約束なのだ。
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