限度額突破

 出張だけでカードの限度額に達した。びっくりした。

 考えてみたら、この二ヶ月というものの、家に二日しか帰ってない。そりゃそうなる。泊まったビジネスホテルは一泊あたり六千円から八千円。それに加えて新幹線代と飛行機代。とんでもない額の金が一気に吹っ飛んだことを考えたら、ちょっと泣けてきた。

 会社から仮払いしてもらう手もない訳じゃないが、返す手続きが面倒である。

 仕方ないから別のカードを使った。何か間違ってる気がするが、冷静に考えられる暇があるなら、一秒でも早く寝たい。そんな毎日である。


 出張には毎回数万円は持つようにしている。カード払いはそんなに好きではない。何故なら性格がずぼらすぎて、自分がどのくらい使ったかわからなくなってしまうからだ。

 ホテルや飛行機は仕方ない。額が大きすぎて現金を引き出すだけ時間の無駄だ。でも普段の食事代などは現金で処理したい。

 これは人それぞれで、まぁ男性が圧倒的に多いからか、カード派のほうが優勢である。

 女性は長財布を使うことが多いから、紙幣を多く入れてもさほど困らないからだと思う。偏見。


 しかし、現金派でもカード派でも財布やカードホルダなどは必要である。落とすと素敵なことになる。

 出張や飲みが多い業界なので、「財布を落として一人前」みたいな狂った価値観がある。財布ではなくスマフォなども落としたり無くしたりする人が多い。

 偶に鞄を無くす人もいて、そうなると事件である。機密情報やら何やらが流出したのではないかと、皆青ざめる。

 その点、財布は個人情報なので知ったことではない。お前の家にピザが沢山届いても、会社に害はないから知らん、というわけだ。


 私も一度、財布を紛失した。

 「財布落としたみたいなんですよねー」と煙草吸いながら呑気に言ったら、上司に物凄く呆れられた。


「じゃあお前、どうやって此処から帰るんだ?」

「金貸して下さいよ。広島から東京まで」

「いいけど、借りる前提で落ち着いて煙草なんか吸ってるなよ!」


 慌てたって財布出てくるわけじゃないしなぁ、と煙草を灰皿ですり潰す。

 そもそも何処で落としたのか皆目見当も付かない。


「昨日は何してたんだよ」

「一緒に仕事してたじゃないですか、深夜二時まで。帰ったらなかったんですよ」

「でも一時に飯食った時は持ってただろ。………あ、わかった」


 上司が何処かにいなくなったと思うと、私の財布を持って戻ってきた。

 わぁ、久しぶり。元気だった? エナメル素材が今日もキュートだね!


「どこにありました?」

「俺の鞄。お前が「トイレ行くから持ってて下さい」って勝手に突っ込んだんだろうが!」


 記憶にないなぁ、と二本目に火をつけた。

 教訓。眠い時に財布を持ち歩いてはいけません。

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