寝落ちしながら

 疲れがしきい値を超えると、急に眠りに落ちる。油断すると、麻酔銃を撃たれた探偵のようなポーズで椅子の上で寝てる時がある。

 あれは寝ている間に事件が解決するが、こちらは解決しない。私が寝たのは私の脳の作用であって、外部からの干渉ではない。


 寝落ちにも個性というか、個人差がある。


 私は座ると寝てしまうので、前述のような状態になる。立っていると平気なのは、かつてブラックもブラック、漆黒の闇に浸したような居酒屋でバイトしていた頃の名残だろう。過酷な労働条件に染まりやすいのだろうか。考えると嫌になるので辞めておこう。


 食事をしながら寝る人もいる。多分元々満腹になると眠くなることに起因していると思う。

 カレーうどんを食いながら寝落ちたその人のシャツは、それはそれは凄いことになった。でも全員疲れていたので、彼を止めることは出来なかった。

 どのぐらい疲れていたかと言うと、同じ店内でタレントがロケをしていたのを無反応でスルーしたぐらいである。もはや我々に残されていた気力は僅かだった。人は無力である。カレーうどんに敗北する仲間を助けることも出来ない。


 立ったまま寝る人もいる。これは元々徹夜とかに慣れていない人だと思う。どこで自分が力尽きるのかわからないまま、脳が寝る。

 病院の廊下でそのまま寝落ちした人は、看護師に助けられていた。流石プロは手慣れたものである。


 珍しい部類では、メモを取っていると寝てしまう人もいた。

 勉強していると眠くなるタイプの人なのかもしれない。あとは寝るときに集中するタイプか。初めて見た時には、何で寝れるのかよく理解出来なかった。肘で小突いたら起きてくれたけど。


 話は変わるが、凄い良いとされる椅子がある。人間工学に基づいて作られた、疲労軽減作用のあるもので、お値段はなかなかの物だ。座るだけで全身の力が抜け、足への負担がなくなるのがわかるほど素晴らしい。

 徹夜明けにぼんやりと立ったままでいたら、親切なお客さんがその椅子を貸してくれた。丁重に断ったが「そこに立たれていると逆にうざい(要約)」と言われたら断れない。


 オチはわかると思うが、座った途端に寝た。大変良い寝顔だったと、後で通りかかったマネージャーに大笑いされた。例えるなら、日向にいるネコの如くだったらしい。

 いいじゃないか。人間は寝る生き物なんだから。

 何もかも徹夜のせいだ。私は悪くない。

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