土曜日の電話は出たくない

 こんな生活をしているが、仕事が終わったら一切我関せず、休みの日は速やかに携帯の電源を切るタイプである。

 あと九時前に会社に行っても九時まではパソコンを開かない。仕事の話をされても聞かない。

 周りもわかっているから何も言わない。どんなに周囲の受けが悪くとも理は私にある。というかこの程度の防御線がないと、仕事が無限に増える。


 そんな仕事スタイルだが、時々休みの日に切り忘れた携帯が鳴ることがある。

 日差しも麗らかな春の土曜日、布団にくるくると戯れて寝ていたら、不吉な音で目を覚ました。携帯の、否、トラブルの音である。

 休みの日に鳴る携帯の用件なんてトラブル以外ない。

 留守電になるまで放置しようとしたが、何回も鳴るから諦めてベッドから降りた。

 昨日の酒が脳髄とベリーダンスを踊っている。煙草に燻られた喉はざらついてる。

 不機嫌丸出しで電話に出れば、相手は九州支社の人だった。珍しい人からかかってくるなぁ。でもタンスの角に小指ぶつけろ。


 しかし電話の内容が何かおかしい。

 否、奇声を発しているわけでもなければ、支離滅裂なことを言っているわけでもない。意味はちゃんと通じている。システム構築に関する質問だ。


 でも土曜日の朝にわざわざ訊くような内容じゃない。

 どこかが稼働する、とかならわかる。でもそんな話は聞いていない。大体、そうだとしても人に電話をかけてまで訊くレベルではない。会社のサーバから仕様書出してくればすぐわかる。


 嫌な予感がする。凄く嫌な予感がする。


 電話を切ったあと、私はその予感とともに二度寝モードに入った。電話で喋ったせいで喉は更にカラカラだったが、睡眠欲が勝った。


 そして明けて月曜日。その人は会社に来なくなってしまった。

 本来なら火曜日に、規模の大きな製品デモを行う予定だったのだが、家から出てこなくなったらしい。

 何故私がそんなことを知ったかと言うと、向こうの営業が直接電話をしてきたからだ。会ったこともない営業は事情を話した後、懇願するように私に言った。


「お願いです。明日、こっちに来てください」

「嫌です」


 翌日、製品デモの「お手伝い」のため飛行機に乗った私は、まさかそれから半年もの間デスマーチをすることになるなど思いも寄らなかった。


 教訓:やはり休みの日の電話は取ってはいけない。

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