生存競争で走らない

 自慢じゃないけど、大抵の不測事態は乗り越えられる。

 それもこれもアルバイト(※1)のおかげだ。クソみたいなドラマ一本は出来そうなほど濃いバイト生活を送ってきた。

 「慌てたり動じたりすることあるの?」とよく聞かれる。あのバイトを始める前までは普通にお化け屋敷とかでビビってた気がする。もう今ではお化け屋敷でお化けと握手せん勢いだ。生きている人間の奇行のほうがずっと怖いと知ってしまったからである。


 SEをやっていると、偶にサーバとかが突然落ちることがある。

 雷で落ちた時にはどうしようかと思った。当時はあの大震災の直後で、避雷針がポッキリと折れていたのである。誰も悪くない。だが早く復旧させなければならない。

 こういう時には焦っても仕方ない。落ちたもんは落ちたのだ。なかったことになど出来ない。此処に某未来ロボットが来て、便利なグッズで時を遡ろうとしたなら、サーバが落ちる前じゃなくて小学生時代とかに戻してもらう。家庭科の授業で作った味噌汁を床にぶちまけた過去をリセットしたい。


 サーバの電源ボタンを入れても、全く反応がなかったので、いつも持ち歩いているバッグから工具を取り出した。ペンチとドライバーは乙女の嗜みである。お化粧直しのパウダーなんかより、ずっと役に立つ。因みに髪を縛るゴムは静電気除去仕様。

 他の人たちも必要な工具を取り出して、沈黙したサーバへと向かう。焦っては二次災害を起こすだけ。我々に出来るのは粛々とサーバを復旧すべく、最小限の手間をかけることだけだ。


 慌てると感電するし、というのが第一義でもあるけれど。


 自分の命を守るには、焦ってはいけない。

 新幹線が燃えても、飛行機が飛ばなくても、バスが路上でスピンしても、慌ててはいけない。上司に電話を掛けている時に、すぐ傍のビルが爆発したことがあったけど、私は慌てずに話を進めた。上司には後で物凄く怒られた。知り合いにも諭されたけど、結局何がいけなかったのかわからないままだ。それでも私は生きている。



※1 「即席風物詩」という小説にまとめているので、暇ならどうぞ。

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